フェイル・セーフ機能付きリラクタンス・センサー:Design Ideas アナログ機能回路
今回は、低速と中速の用途に向けたフェイル・セーフ機能付きVRセンサー回路を紹介する。
可変リラクタンス*1)(VR)・センサーは、工場内や自動車内などの環境で多く使われている。機械的振動に強く、300℃まで動作するからだ。
*1)リラクタンスは磁気回路の断面積を通る磁束に対する起磁力の比。
VRセンサーの用途のほとんどは、鉄製の回転物の回転速度を検出することにある。検出した信号の振幅は、信号処理前では目標物体の回転速度に比例する。センサーの信号処理回路は、高速回転を想定して設計されている。このため回転速度が若干低くなると、センサーの機能は停止してしまう。1秒間に数パルス程度の回転速度であれば、ホール効果センサー*2)の使用が望ましい。しかしこのセンサーは、回転物に磁石を取り付ける必要があるため、磁石の破損や損傷で故障に陥りやすい。
*2)金属や半導体に電流が流れているとき、この電流に垂直な方向から磁界を印加すると、両者に垂直な方向にホール電圧と呼ばれる電位差が現れる。この電圧差を利用して、磁界の有無を検出するのがホール効果センサーである。
さらにVRセンサーもホール効果センサーも、ケーブルやセンサーに故障が生じたときの信号処理にフェイル・セーフ機能が搭載されていない。そこで低速と中速の用途に向けたフェイル・セーフ機能付きVRセンサー回路を紹介する(図1)。コイルL1と抵抗R1、RS-422/RS-485レシーバー回路を4つ収めたIC1で構成した。IC1からは、独立した相補型信号、すなわちY1(VOUT)とY2(VOUT)が出力される。表1に、この出力信号によって得られるフェイル・セーフ・モードを示す。
電源電圧は10V、12V、もしくは制御システムの24V直流電源を使用できる。コイルL1は、直径5.08mm(0.2インチ)、長さ20.32mm(0.8インチ)の鉄棒に、#32のマグネット・ワイヤーを2600回巻いた構成になっている。鉄棒はセンサー表面から3.175mm(0.125インチ)だけ飛び出している。鉄棒の背面に取り付けた棒状の磁石は必要な磁束を供給する。
回転物は、リラクタンスの変化を引き起こす。その結果、磁束量が変化する。この変化に対応して、L1に誘起される電流が変わる。R1ではL1に流れる電流を時間的に変化する電圧に変換する。この電圧値がIC1の入力端子A1とB2に入力される。入力端子は、入力電圧範囲が±25V、入力スレッシュホールド電圧が±0.2V、入力ヒステリシス電圧の標準値が45mVである。従って、このVRセンサーは、低い回転速度による微弱な電圧信号を検出できる。すなわち低速で回転する物体のセンシングが可能になる。
R1に印加される電圧は、IC1に内蔵した4個のレシーバー回路のうち、2個に分けて入力される。そして独立した相補型信号Y1、Y2として出力される。レシーバー入力には、静電気放電(ESD)保護機能を備えている。
Y1とY2のソース電流は最大10mA。具体的には、この電流がnチャネルMOSFETのQ1とQ2の論理レベルをスイッチし、Q1とQ2がVOUT、VOUTを出力する。IC2はドロップアウト電圧が低いレギュレーターで、IC1に5V電源を供給する。図2にこのセンサーを使って、低速動作の物体(a)と中速動作の物体(b)の回転速度を検出した様子を示す。
図2 可変リラクタンス・センサーの検出波形
(a)は低速動作の場合。回転速度は毎秒2.4回(4.9Hz動作)。(b)は中速動作の場合。回転速度は毎秒376.2回(752.4Hz動作)。なおチャンネル1はVOUT、チャンネル2はVOUT、チャンネル3はR1に印加される電圧の波形。
なお今回示した回路は電源電圧が10V〜24Vの用途を想定しているが、5Vの用途の場合は、マイコンをセンサーにより近づけて接地できる。マイコンとセンサーのインターフェースは、L1とR1、IC1だけで実現できる。3Vの用途の場合は、IC1の代わりに3.3V動作のIC「MAX3096」を使えばよい。
Design Ideas〜回路設計アイデア集
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【ディスプレイとドライバ】:LEDの制御、活用法など
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※本記事は、2008年7月29日にEDN Japan臨時増刊として発刊した「珠玉の電気回路200選」に掲載されたものです。著者の所属や社名、部品の品番などは掲載当時の情報ですので、あらかじめご了承ください。
「珠玉の電気回路200選」:EDN Japanの回路アイデア寄稿コラム「Design Ideas」を1冊にまとめたもの。2001〜2008年に掲載された記事の中から200本を厳選し、5つのカテゴリに分けて収録した。
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