MCADとECADの設計データを統合可能な熱解析ツール、熱設計フローを短縮:Mentor FloTHERM XT
Mentor Graphicsの「FloTHERM XT」は、電子機器の設計に用いられるMCADツールとECADツールのデータを統合して、冷却システムなどの熱設計を効率よく行える熱流体解析ツールである。従来と比べて熱設計フローを短縮できるとともに、熱解析の専門家ではない電子回路設計者でも熱設計の検証を比較的容易に行うことが可能だ。
Mentor Graphics(以下、メンター)は2013年3月19日、電子機器の設計に用いられる機械設計CAD(MCAD)ツールと、電子回路設計CAD(ECAD)ツールのデータを統合できる熱解析ツール「FloTHERM XT」を発表した。同ツールを用いれば、筐体の設計に用いたMCADのデータや、回路基板の設計などに用いたECADのデータを連携させながら、冷却システムを含めた電子機器の熱設計を効率よく行えるので、コンセプト設計から詳細設計に至るまでの設計フロー全体を短縮できる。さらに、熱解析の専門家だけでなく、電子回路設計者でも熱設計の検証を比較的容易に行えるようになるという。既に出荷を開始しており、車載システムや航空宇宙機器、通信機器、コンピュータ、産業機器、家電機器などの冷却シミュレーション用途に向ける。
最新の電子機器のプリント基板には、高性能CPUや画像処理用プロセッサ、高速動作のメモリなどが搭載されている。メンターが顧客に行った調査によれば、「これらのICチップを搭載したボード製品は、1枚で消費電力が300Wを超えるものも少なくない。もう少し規模の大きいラックタイプの製品になると数千Wを超える場合もある」という。さらに、「2012年のプリント基板の実装面積は、1995年時点のものと比較すると半分になっている上に、実装される部品点数も3.5倍に増えている。つまり、プリント基板の実装密度は7倍になっているわけで、その分冷却対策も難しくなっている」という。
しかし、従来の設計フローでは、機械設計と電子回路設計は担当者が分かれていることもあり、機器全体の熱解析はプロトタイプを作成した後で行うケースが多かった。ところが、設計の最終段階で放熱による不具合が判明すると、場合によっては設計の初期段階まで戻って修正する必要があり、開発に要する時間とコストが大幅に増大する要因となった。また、プロトタイプを作成する前に熱解析を行うとしても、これまでは、熱解析のシミュレーションに必要なサーマルモデルを作成するために、機械系の設計データと電子回路の設計データを統合しなければならず、開発者は複雑な作業を行う必要があった。
「FloTHERM」と「FloEFD」の解析機能を融合
FloTHERM XTは、こうした課題を解決するために開発されたツールある。ICパッケージやプリント基板といった電子回路の用途で多くの実績を持つ熱流体解析ツール「FloTHERM」と、主要な機械系CADとの連携機能が特徴の流体解析ツール「FloEFD」の機能を併せ持つ。

コンピュータのグラフィックスカードのヒートシンクについて熱解析を行った結果。FloTHERM XTにより、表面温度と3Dパーティクルのプロットを用いて、筐体に収まるようにヒートシンクの形状を設計している。(クリックで拡大) 出典:Mentor Graphics
FloTHERM XTによる冷却シミュレーションの設計フローは以下の通りである。まず、簡単にプリント基板のコンセプト設計やレイアウト設計を行う。次に、解析モデル作成用マクロ「SmartPart」を用いて、個々のICチップや電子部品、ボードおよび筐体などのデータを入力して全体の構造設計を行い、熱解析のためのモデルを作成する。これらのコンセプトモデルを基に、数分で熱解析のシミュレーションを行う。
その結果としてプリント基板上の温度分布などがディスプレイ上に表示される。コンピュータ上で特定のポイントをプローブして、指定した場所の温度を計測することもできる。もし、発熱など問題となるデバイスやエリアがあれば、その部分が赤色で表示され、ヒートシンクやファンモーターの設置など、放熱対策が必要であることを示す。その場合にはコンピュータ上で放熱対策を施してシミュレーションを繰り返し、問題が解決されれば、MCADツールやECADツールの設計データをFloTHERM XTに取り込み、最終的に機器全体の設計を行うことになる。
メンターでメカニカルアナリシスディビジョンのプロダクトマネージャを務めるIan Clarke氏は、「FloTHERM XTは、ECADツールを使った設計フローに直接統合でき、ECADツールで作成した電子回路の設計データも効率よく取り込める。信号品質(シグナルインテグリティ)に関連する過去の設計データなどを再利用して、設計に反映させることも容易に行える。また、FloTHERM XTは新しいメッシュ生成技術を備えたことで、曲面形状のデータも直接扱うことができるようになった」と述べた。こうした機能をサポートしたことによって、電子機器のコンセプト設計から詳細設計に至る設計フローを大幅に短縮できるようになったという。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
メンターが「1D-3D熱流体解析」を提案、システムレベル解析の精度と速度を両立
メンター・グラフィックスは、システム内部における1次元(1D)的な線形の熱伝達について解析するツール「Flowmaster」と、3次元(3D)CADツールで作成したモデルに対して熱流体解析を行えるツール「FloEFD」を連携させる「1D-3D熱流体解析ソリューション」を提案している。「生産性が4倍向上」、20億ゲートの回路を3MHzでエミュレーション可能に
Mentor Graphicsが大規模LSI開発の論理検証向けに投入したハードウェアエミュレータ「Veloce2」は、従来機種に比べてエミュレーションできる回路の規模とクロック周波数がともに2倍に高まった。消費電力と設置面積については従来機種と同等に抑えている。熱特性測定システムがIC/LED素子の熱モデルを生成可能に、CFDソフトとも連携
Mentor Graphicsは2011年12月、同社が取り扱うICパッケージ/LED素子の熱特性測定システム「T3Ster」と熱流体解析(CFD)ソフトウェア「FloTHERM」の連携動作が可能になったと発表した。