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安全なデジタル無線通信を支えるスペクトラム拡散技術無線通信技術 スペクトラム拡散(4/4 ページ)

スペクトラム拡散は、一見すると周波数帯域を余分に必要とする。しかしデジタル無線通信にとってスペクトラム拡散を導入する利点は多い。通信チャンネルの容量が増える、データのセキュリティが向上する、妨害波に負けない、信号強度の変動に強い、といった効果が見込める。

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DSSSにおける同期の確立

 DSSSでは相関器の出力がしきい値に達しない場合、入力シーケンスは背景雑音とみなされて廃棄される。受信器で生成するPN符号と入力シーケンスが位相同期されなかった時の相関器出力は非常に小さい。位相同期が明確でない限り、原信号の復元は不可能になる。

 PN符号は信号を拡散させる。このため、送信器の搬送波周波数は一定に維持される。送信器と受信器で周波数を精密に合わせる必要はない。

DSSSのアクイジション(捕捉)

 無線受信器の信号発生回路によるPNシーケンスと入力シーケンスの相関値は、同期が完全な時に極大となる。相関値が、あらかじめ設定されたしきい値を超えるような位相条件を受信器は探索する。


図6 DSSSのアクイジション動作。シリアルな探索では、モニター回路が相関器出力を継続的にチェックする。相関器出力が所定のしきい値に達しない場合には、制御回路によってPN符号の位相をずらす (クリックで拡大)

 探索(サーチ)方法には、シリアルとパラレルがある。シリアルな探索では、モニター回路が相関器出力を連続的にチェックする。相関器出力がしきい値以下の場合には探索制御回路がPNシーケンスの位相をずらす(図6)。位相のシフト動作は、相関器出力がしきい値を超えるまで続く。このフィードバック回路は、「スライディング相関器」と呼ばれる。

 シリアルな探索では、位相が同期するまでの時間(捕捉時間)が長い。このため、シリアルな探索を複数本、並行して走らせる方法を採用することがある。これがパラレルな探索である。

 パラレルな探索では、ハードウェアが複雑かつ大規模になるという問題があるものの、捕捉時間は短くて済む。捕捉時間が最短となるのは、相関器の数がPN符号のチップ数と等しい時だ。この場合、最初から粗く同期された状態となり、同期が完了するまでの時間は、チップの周期をTCすると±TC/2以内になる。

DSSSのトラッキング(追従)


図7 DSSSのトラッキング動作。「位相遅れ」のPN符号を入力した相関器の出力と「位相進み」のPN符号を入力した相関器の出力を比較し、PN符号の調整方向を決める (クリックで拡大)

 アクイジション(捕捉)が完了すると、受信器の動作は入力シーケンスの位相の変化に追従する過程(追従過程)に入る。追従過程で利用する回路は普通、遅延ロックループ(DLL:delay-locked loop)である(図7)。DLLは入力シーケンスに対して位相の異なる3種類のPNシーケンスを生成する。その中から「位相遅れ」のPNシーケンスと「位相進み」のPNシーケンスの相関器出力を連続して比較し、位相が外れている方向を見つける。この方向と逆方向の位相ずれを、位相が同期しているはずのPNシーケンスに対して与える。このようにして高精度な位相同期が維持され、入力シーケンスが逆拡散される。

FHSSにおける同期の確立

 FHSSでは無線送信器の搬送波周波数が動的に変化する。この変化に追従して、無線受信器は受信周波数を切り替えなければならない。ここで重要なのは、周波数切り替えのタイミングを合わせることである。さもないと、無線送信器と無線受信器が同期しなくなる。

FHSSのアクイジション(捕捉)

 FHSSにおけるアクイジションは、無線送信器と無線受信器を同一の周波数サブチャンネルに設定することである。周波数同期とも呼ばれる。

 周波数同期の最も簡素な手法は、アクイジション専用のサブチャンネルを送信器と受信器の両方が備えることである。最初にアクイジション専用のサブチャンネルで通信を開始し、周波数同期が完了するまで通信状態を維持する。ただしアクイジション専用のサブチャンネルが雑音によって妨害されてしまうと、通信を開始できないことがある。

 別の方式に、電源起動とともに周波数ホッピングを始めるやり方がある。送受信器が周波数同期を完了させるには、送信器が周波数ホッピングする速さは、受信器が周波数ホッピングする速さよりも、高くなければならない。

FHSSのトラッキング(追従)

 アクイジションが完了すると、トラッキングへと移行する。送受信器が同じ時間幅に同じサブチャンネルにとどまっており、その期間が完了すると、次の別なサブチャンネルに移行する。移行のタイミングを合わせることは、DSSSに比べるとFHSSは簡単である。送受信器のホッピング頻度が固定されているからだ。サブチャンネル番号の設定を書き込んだルックアップテーブルを送信器と受信器はあらかじめ読み込んでおり、その設定に従ってサブチャンネルを次々と変更する。

システム性能の維持

 DSSSとFHSSではともに、同期を確立するために一定の時間を必要とする。言い換えると、遅延時間が生じる。そのため、通信プロトコルは同期パルス用のヘッダを備えるのが普通である。このヘッダにより、実際の情報を含むパケットが送信される以前に、送信器と受信器の同期が成立する。

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