同期整流器の動作タイミングを制御する回路:Design Ideas パワー関連と電源
同期整流器を採用する際に問題になるのは、スイッチングのタイミング制御が複雑になることだ。本稿では、この動作タイミングを制御する回路を紹介する。
同期整流器は、MOSFETを使った整流回路である。オン状態での電力損失が小さいという特徴がある。このためダイオードに代えて、スイッチング・レギュレーターの出力整流部によく用いられている。
同期整流器を採用する際に問題になるのは、スイッチングのタイミング制御が複雑になることだ。タイミングの発生方法としては、電源回路の内部を制御する駆動信号に合わせて正確なタイミングを予測する方法がある。さらにMOSFETに流れる電流を検出し、この情報を基に動作させる方法もある。
図1(a)、(b)はこれらの手法に代わる回路である。フォワード・トポロジーやバック・トポロジーに使える。主スイッチがオフの期間については、整流器はソースからドレインに電流を流している。電源回路のスイッチング・サイクルが始まると、主スイッチがオンになり同期整流器に対して駆動電流の供給を開始する。最終的には、この電流はゼロまで低下し、このとき同期整流器は反転してドレインからソースに電流を流し始める。この瞬間が同期整流器をオフにする最適なタイミングである。
図1 従来のタイミング制御方式
(a)のトポロジーでは、同期整流器のターン・オフが遅れるため、かなりの大きさの反転電流が流れてしまう。さらに電流反転のタイミングは負荷の状態に依存する。(b)のトポロジーでは、ゼロ・クロス電流の検出が同期整流器のターン・オフを遅らせる一因になる。
しかし、このときに制御回路からの信号が供給されると、同期整流器がオフになるのはさまざまな遅延、例えばMOSFETのターン・オフ遅延の後になる。ターン・オフ時には、大きな値のdi/dtが含まれている。このため同期整流器に大きな反転電流が流れているときにオフになるという、望ましくない結果になる。固定遅延で図1(a)の回路を使用するのであれば、同期整流器のターン・オフを最適化できる。この理由は、電流の反転タイミングは負荷の状態に依存するためだ。しかし負荷の状態に応じて遅延の大きさを変える適応型遅延制御を実現しようとすると、非常に複雑になる。図1(b)の回路にも同様の難しさがある。ゼロ・クロス電流検出器も動作が遅い場合がよくある。これにMOSFETの遅延が加わるため、同期整流器のオフが遅くなり過ぎる原因になる。
図2には、図1(b)の回路を簡単に変更する方法を示した。整流器のドレイン側に巻線センサー付き可飽和コアを接続する。この少しの回路変更だけで、ターン・オフの遅延問題を解決する2つの主機能を実現できる。1つは、電流がゼロ付近まで減少する瞬間を決定できる機能である。この瞬間に可飽和コアは、飽和と電圧阻止の状態から抜け出す。その後、巻線に電圧が印加され、瞬時にMOSFETのターン・オフを制御するセンサー回路に送られる。もう1つの機能は、ターン・オフ時間における電流のdi/dtを十分に小さくすることである。
可飽和コアは広いタイミング範囲で動作する。このため同期整流駆動回路を柔軟に設計でき、モジュールの価格を抑えられる。コアは、電力が大きいアプリケーションでも、小型品が使える。非四角形ループのフェライトがよい。これを使用することで、整流器の電流がまだ正のときにコアが飽和状態から抜け出せるため、センサー回路に若干前もって通知できる。可飽和コアは非線形な応答を示す。このため巻線センサーの巻数は、図1(b)の線形センサーの巻数に比べてかなり少ない。従って、センサー回路とクランプ回路における2次側電流に対する損失はない。すなわち応答速度が向上し、大電流出力時の損失を低減できる。
今回示した回路は、多くの用途に使える。ほとんどの電源回路トポロジーに適用可能だ。一般的なソフト・スイッチング*1)回路の性能向上にも向く。
*1)電源回路の高効率化技術の1つ。電圧もしくは電流がゼロになったときにスイッチングを行うことで、スイッチング損失を抑える。
Design Ideas〜回路設計アイデア集
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【パワー関連と電源】:ノイズの低減手法、保護回路など
【ディスプレイとドライバ】:LEDの制御、活用法など
【計測とテスト】:簡易テスターの設計例、旧式の計測装置の有効な活用法など
【信号源とパルス処理】:その他のユニークな回路
※本記事は、2008年7月29日にEDN Japan臨時増刊として発刊した「珠玉の電気回路200選」に掲載されたものです。著者の所属や社名、部品の品番などは掲載当時の情報ですので、あらかじめご了承ください。
「珠玉の電気回路200選」:EDN Japanの回路アイデア寄稿コラム「Design Ideas」を1冊にまとめたもの。2001〜2008年に掲載された記事の中から200本を厳選し、5つのカテゴリに分けて収録した。
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