FPGAの進化を上回れ! 生産5年目に突如現れた起動不良:Wired, Weird(4/4 ページ)
FPGAはハードウェアをプログラムできるデバイスで機器の高性能化や小型化には欠かせなくなってきている。複数のFPGAが実装される基板も多くなった。今回は、重要部品となったFPGAに起因したと思われるトラブルと、その原因について詳しく調査を行ったので紹介する。
あれっ!?
電源の立ち上がり途中ではコンフィギュレーションデータは消えており、保持する意味はないはずだ。
どうやら、2.5V電源の判定値(2.0V)と電源の推奨値(2.35V)の差に不具合の原因が隠れているようだ。
図1を再び見ながら説明しよう。
3.3V電源は電源投入から約4msで立ち上がり、この時2.5V電源は1.8V程度である。図4をみると、コンフィギュレーションの構成開始条件は2.5V電源の立ち上がり待ちになっている。2.5V電源が2.0Vに達した約3.5ms後にコンフィギュレーションの構成を開始しているがその時の2.5V電圧は2.2V程度であり、推奨電圧の2.35Vには達していない。
2.5V電源の電圧が低く、この電源シーケンスでは正常にコンフィギュレーションデータを得ることは保証できないことになる。2.5V電源の立ち上がりを3.3V電源よりも早くすれば正常にコンフィギュレーションが構成できることになると考えた。電源のシーケンスを見直し、2.5V電源の立ち上がりを早くしてみた。電源シーケンスを見直した後の電源波形を図5に示す。
なお、電源シーケンスは、電源IC(TPS75003)のSS3を10nFから1.5nFに変えて変更した。
これで2.5V電源の立ち上がりが早くなった。図5から電源投入の2ms後には2.5V電源が立ち上がっていることが分かる。この変更を行った後に、電源のON/OFFを繰り返し行ったり、2.5V電源にオシロスコープのプローブを当てたりして、不具合の再現を試みたが、再現できなかった。どうやら不具合の対策は完了したと思われる。
不具合情報を再検証
対策を終えたところで、あらためて顧客から寄せられた不具合情報を再検証してみた。
【顧客から寄せられた不具合情報】
- 表示が全く点灯せず、基板が全く動作しない
- 一回立ち上がらないと何回電源をON/OFFしても立ち上がらない
- FPGAの電源にオシロスコープのプローブを当てると不具合が再現されやすい
- 電源投入時のコンフィギュレーションの構成が途中で止まってしまう
“電源ON/OFFを繰り返してもシステムが立ち上がらなかった”のは、3.3V電源に残留電圧があり、短時間で電源のON/OFFを繰り返すと3.3V電源がより早く立ち上がってしまうからである。
2.5V電源にプローブを当てた場合に不具合が生じやすかったのは、2.5V電源がノイズを拾いやすく2.5V電源のより低い電圧でFPGAが動作を開始したからと想定された。
なおFPGAのコンフィギュレーションの起動信号であるPROG_B信号の処理が不十分で、2.5V電源および3.3V電源が十分に立ち上がった後に起動信号がInputされれば、FPGAは正常に起動していたと思われた。
残る疑問
しかし、1つ疑問が残る。
これまで5年以上、目立った不良もなく、同じ部品を調達して生産していた基板に、なぜ今頃になって起動不良が起こったのだろうか?
筆者の推測だが、「最近になってこの基板に搭載されているFPGA製品が改良され、3.3V電源がより低い電源電圧で動作できるようになったからではないか」と思っている。
FPGAは優れたICであり、今後もますます多用されていくだろう。そして、FPGA自体も、日々進化し、スピードアップや動作電圧の低下などより優れたデバイスへと改良されている。
隠れていた不具合がFPGAの進化で露呈か?
だが、その一方で、FPGAのハード面はあまり深く理解されていないように思える。今回のトラブルは、FPGAの改良/改善されたことが逆に、未熟な設計で検証しきれていなかった不具合を露出させてしまったケースといえるだろう。今回のトラブルの原因究明、解決に時間がかかった筆者自身も、より深くFPGAのハードを理解する必要があると痛切に感じた。
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