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SPICE応用設計(その2):フーリエ解析SPICEの仕組みとその活用設計(13)(2/3 ページ)

前回に引き続き、オーディオアンプの設計を例にとりながら、SPICEの設計への応用を紹介していきます。今回は、具体的な歪みの値を調べる「フーリエ解析」を解説します。

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フーリエ解析とは

 フーリエ解析とは、前記の例のように、波形をフーリエ級数(スペクトル)に展開し、その大きさについて調べるものです(前述したFFTとは高速フーリエ変換のことで変換アルゴリズムの1つです)。

 フーリエ解析技術は上記のような例以外にもスペクトラムアナライザとして“IEC6100−3−2の高調波電流解析”、“実動作におけるフィルタの減衰率”、本連載の応用である“SW電源の伝達関数”、EMIの各種ノイズ解析などに利用されています。

フーリエ解析の注意点

 フーリエ解析では過渡解析で得られた波形を基に解析を実行しますので、まず過渡解析を実行してデータを得なければなりません。この時の解析時間の逆数がフーリエ解析をした時の周波数分解能になりますから分解能として基本波の1/10の精度が欲しければ解析時間として10波形以上が必要です(図1では10KHzの波形を1mSの時間、解析しましたので1KHz単位で計算されています)。

 また、元の波形の計算点(データ)の間隔が粗いとデータ間隔に同期して歪みを生じますので波形の計算点を表示させて波形を充分に再現しているのか否かを確認することも必要です。

 この解析時間の刻みは過渡解析のオプションで設定しますが、刻み時間を対象波形の周期の1%以下に設定しておくと良いでしょう(図3では100μSの周期に対して200nS刻みですから0.2%です)。

 なおフーリエ解析では過渡解析の全データが使用されますので解析時間を周期倍に設定しておくとFFTノイズを下げることができますし、LTspice*)では高調波次数や使用周期数も選択できます。

*)SPICEダイレクティブで .four 基本周波数 [次数] [周期数] 節点名1 節点名2…を設置します。

“フーリエ解析用データ間隔が粗いと歪みを生じる”と述べましたがその歪みとは、

  • データがないので次数の高い周波数領域での解析精度が向上しない。
  • ないはずのノイズが現れる。
  • バックノイズレベルが上昇し、微小ノイズが埋もれる。

などの弊害になって現れます。事前に刻み時間の影響を調べておいた方が良いでしょう。


 なお、ここではフーリエ変換自体(フーリエ級数、変換アルゴリズム、窓関数など)については触れません。興味のある方は調べてみてください。

フーリエ解析結果の表示方法

 一般に表示の桁数が数桁以上異なれば対数表示が見やすいですが、1桁程度の差であれば線形表示が良いでしょう。いずれにしろ表示の切り替えは簡単ですのでどちらか見やすい方を選べば良いと思います。

温度解析

 上記のように設計の確認を進めてきましたが、忘れてはならない要素として市場における使用時の温度変動があります。

 温度の影響の検討が済んでいませんので前回説明しましたパラメトリック解析で温度の影響を解析します。図1の回路で今度は周囲温度をパラメータとして可変させます。結果を見やすくするため0℃と100℃の2点のみを図4に示しますが、Ta=0℃では問題なく流れていた各コレクタ電流が100℃になると様子が変化します。


【図4】Ic(Q1)、Ic(Q4)の温度解析

 このままでは温度に対して損失や歪みが変化することが予測できますので何らかの対策が必要であることが分かります。


【図5】新バイアス回路

 原因はご存じの通り、バイアス電流が定電流で供給され、抵抗で電圧に変換されていることによります。このバイアス電圧には温度特性がないのに対して、トランジスタのB−E間のPN接合は−2mV/℃の温度特性を持ちますので高温時に過剰バイアスとなってしまうのです。

 したがって、対策としてはバイアス電圧も−2mV/℃の温度特性を持つように考えます。図5に示す新バイアス回路では抵抗に代えてダイオードを挿入し、温度特性を持つバイアス回路を実現しています。

 また、この回路を使用した場合の検討結果を図6、および表2に示します。


【図6】新バイアス回路におけるRBIASの検討(V1:5.56V VSIG:4.4Vp)

【表2】高次高調波の比較

 図6はダイオードのVfのバラツキを緩和する直列抵抗の大きさを検討したものです。本来ならダイオードとトランジスタでチップの製造プロセスや電流密度を合わせれば良いのですが、チップの情報がありませんので今回は抵抗と組み合わせて使用しています。

 図5の回路ではバイアス電圧の大部分はダイオードのPN接合が受け持ちます。ですので、抵抗値は従来回路に比べて1桁程度小さくなり、図6(b)のパラメトリック解析の結果から曲線の変動が始まるRBIAS=3.3Ωに決定しました。また、実機上ではD1、D2はQ1、Q4と熱的に結合できるように配置することにします。


【図7】Ic(Q1)、Ic(Q4)温度特性(新バイアス回路RBIAS=3.3Ω)

 この条件での温度解析結果(Ta=0℃、100℃)の結果を図7に示しますが、Q1,Q4の電流波形にはほとんど変動がなく、良好な温度特性を示しています。

 フーリエ解析による高次高調波の値も表2に示しますがRBIAS=1μΩでも0.44%ですから従来回路より格段に良くなっています。確認のため、V1=5.66V、VSIG=4.4V時の最終的なフーリエ解析の結果を図8に示します。

 負帰還なしで0.3%以下の歪率であるので簡易なB級アンプとしては充分なレベルと判断できます。

 これで定数の確認が終わりましたので、残る課題はQ1,Q4の損失と、どのようなヒートシンクが必要になるかということになります。

注)ここで紹介した新旧バイアス回路は解析技術の説明のために取り上げたものであり、現在ではダイアモンド差動、その他の新しい回路が使われています。


【図8】RBIAS=3.3Ω+Diode のフーリエ解析結果

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