ミキサーを使ってD-A変換器の速度を2倍に:Design Ideas アナログ機能回路
2個のD-A変換器をインターリーブしてシングル・ユニットとして使い、D-A変換器の変換速度を実効的に2倍にする回路を紹介する。
高品質で高速のスイッチを使うこと
2個のD-A変換器をインターリーブしてシングル・ユニットとして使うと、D-A変換器の変換速度を実効的に2倍にできる。各D-A変換器を正相と逆相のクロックで交互に動かし、出力をマルチプレクスすることによってシステムの総合的なスループットを2倍にする。ここで重要なのは、D-A変換器の出力をマルチプレクスするために、高品質で高速のスイッチを使うことである。
今回提案する回路は、電流モードのD-A変換器によって電流モード・スイッチの出力切り替え(電流ステアリング)を実行する。電流モード・スイッチには、2個の差動トランジスタ・ペアを4象限乗算器の形にクロスカップル接続して用いる(図1)。この回路トポロジーでは、トランジスタの飽和電圧が最小になるので、電圧振幅が小さく、スイッチング時間が短い。
今回は4象限乗算器としてミキサーICの「AD8343」を採用した。このミキサーICを高速の電流モード・スイッチとして利用する。AD8343内のバイアス回路は、4象限乗算器のエミッタ電極に印加する直流電圧を約1.2Vに設定する。このことによってD-A変換器の出力部が必要とするコンプライアンス電圧*1)を決める。ベース電極に最小の駆動電圧を与えると、エミッタは仮想的な交流接地のように振る舞う。両電極における電圧振幅が小さいため、寄生容量の影響はほとんど生じない。
*1)電流出力型D-A 変換器の最大電流出力を電圧出力に変換して得られる値。
今回提案する回路では、2個のミキサーIC(AD8343)を高速のスイッチとして利用し、2個のD-A変換器IC「AD9731」による差動電流出力をマルチプレクスする(図2)。
電流電圧変換機能
ミキサーICの出力側では、終端抵抗が電源との直流経路の役割を果たし、電流電圧変換機能を提供する。また50Ωのシングル・エンド・バック終端インピーダンスを与える。この構成により、遠方に設けた100Ωの差動負荷を、2本の50Ωの同軸ケーブルを用いて駆動できる。
ミキサーの局部発振(LO)入力用クロック信号は、10Ωの抵抗で終端した高速LVDS(lowvoltage differential signaling)バッファーで供給する。出力の電流振幅は±3.5mApp程度で、LO入力における電圧振幅は約70mVppである。図3に示すように、図2の回路は短い立上がり時間と降下時間で動く。
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※本記事は、2008年7月29日にEDN Japan臨時増刊として発刊した「珠玉の電気回路200選」に掲載されたものです。著者の所属や社名、部品の品番などは掲載当時の情報ですので、あらかじめご了承ください。
「珠玉の電気回路200選」:EDN Japanの回路アイデア寄稿コラム「Design Ideas」を1冊にまとめたもの。2001〜2008年に掲載された記事の中から200本を厳選し、5つのカテゴリに分けて収録した。
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