SPICE応用設計(その5):不良率0とW.C.解析:SPICEの仕組みとその活用設計(16)(2/3 ページ)
今回から2回にわたって、これまで説明してきました「モンテカルロ解析」を補完し、併用する「ワーストケース解析」について説明します。
感度解析法によるワーストケース解析の手順
感度解析法の流れを簡単に示します。
- 計測可能な条件下で「出力変数のどういう状態が最悪か?」を定義します。
- 偏差の設定された全ての部品について、1個ずつ微少変動(例:1%)を与え、解析を実行します。
- それぞれの微少変動が最悪値に与える影響を算出し、各部品の感度を算出します。
- 与えられた偏差と各部品の感度を用いて最終的な設定値を算出します。
- 最終定数の組み合わせで最悪特性を確認します。
ワーストケース解析の実際
図1に解析する対象の回路図を示します。この回路図は前回モンテカルロ解析で使用した回路図そのものです。
前述の手順に従って、まず最悪条件を決めます。今回はオーディオアンプとして動作させた場合に高域での異常発振を防止するため、100KHz近辺での電圧が最大になることを最悪値と仮定します。
1)このケースの最悪値は単純に高域の利得だけでは判断できません。高域利得は低域の利得と周波数特性の重なったものであるからです。
2)利得は工程で調整することもできますので最初に1KHz前後の利得に対する最悪値を求めます。1KHzの利得を重視してワーストケース解析を実行した例を図2に示します。
3)しかし、この結果だけでは最悪値の値は分かっても、どの偏差の組み合わせがこの最悪値を作り出しているのかは分かりません。そのためには解析実行時の感度解析の結果が必要です。
4)ログファイルから感度解析の結果を読み出したものをリスト1に示します。
5)リスト1から1KHzの利得に影響するのはR3、R4だけであり、C1、R1、R5は影響しないことが分かります。従って、この2つの抵抗の相対比を調整すれば利得の変動を抑制できることが分かります。具体的には工程で利得調整を行うことにします。
6)次に高域のロールオフポイント(屈曲点)のバラツキを考えます。PSpiceでは単純に屈曲点を指定することができませんでしたので100KHzの利得で代用します。ただし、屈曲点のみの影響を検出するため、この時には1KHzの利得を左右するR3、R4の比率は前記の仮定の通り変動しないものとします。
7)R3、R4の比率を保ったまま、絶対値の変動を与えるために群間変動*2)を考えます。なお、この場合には屈曲点に影響するC1の群間変動も同時に設定する必要があります。
*2):群間変動と群内変動については後述しますが、PSpiceでは群間変動=Lot偏差、群内変動=Dev偏差です。
このように設定したLot偏差の解析ログファイルを読み出したものがリスト2です。
また、事前の感度解析結果からR5は100KHzの利得に対する感度はほとんどないに等しいことが分かっていますので、高域の利得に影響するのはC1、R3、R4の負の相関だけになります。従ってR1、R5はそれほど高精度品でなくても良いことが分かります。
ここで重要なのは感度を表す係数の絶対値よりも感度の+/-の関係で、この値は後の総合変動の判定に使用します。
PSpiceにおいてはこのように群内変動(Dev偏差)と群間変動(Lot偏差)を独立して設定可能なのですが、なぜか両者を同時に変動させた総合変動はLot偏差の感度が優先されてしまって正しく計算することができません。(マニュアルにその旨の記載あります。バグでしょうか?)
Lot偏差とDev偏差の影響を手動で検証するために今度はDev偏差の変動だけを調べた結果をリスト3に示します。
(低域利得に関係するR3、R4は工程内で調整する前提ですので群内偏差を0.5%と小さくしています)
リスト3の結果を見てみると、100KHzの利得に対するDev偏差の影響はリスト2のLot偏差の影響と異なる傾向を持つことが分かります。
8)最終的な部品の偏差を表1のように設定して、リスト2、リスト3の傾向を組み合わせると最大利得を得る定数の組み合わせを求めることができます。
部品&精度 | 偏差 | 結果(最終係数) | |||
---|---|---|---|---|---|
群間(Lot)偏差 | 群内(Dev)偏差 | 群間変動 | 群内変動 | 最終係数 | |
C1(±10%品) | 5% | 5% | 0.95 | × 0.95 | = 0.9 |
R3(± 5%品) | 4.5% | 0.5% | 0.955 | × 0.995 | = 0.95 |
R4(± 5%品) | 4.5% | 0.5% | 0.955 | × 1.005 | = 0.96 |
表1 100KHz利得が最大になる定数の係数組み合わせ |
図3に標準の場合と表1の定数の場合の2通りの周波数特性を示しますが表1の組み合わせでは標準に対して約+7.98%になっています。
この値は、
【1】C1の変動分:表1の結果から
0.499×10 (=4.99%)
【2】R3、R4の群間変動分:リスト2の結果から
0.485×4.5 (=2.18%)
【3】R3、R4の群内変動分:リスト3の結果から
(0.434+0.9186)×0.5 (=0.6763%)
の単純合計(+7.85%)よりも若干大きく、最大値が求まっていることが分かります。
抵抗は容易に高精度品の入手が可能ですので実際の問題としては「容量C1の精度が100KHzの利得を左右する」と言ってもよいでしょう。
なお、ここでは増幅器の裸利得のバラツキは最終回路が決まっていませんので検討していません。具体的な回路が決まった段階で検討する必要があります。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.