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SW電源の解析SPICEの仕組みとその活用設計(最終回)(4/4 ページ)

SW電源は負帰還を施すと異常発振を起こすことがある。このようなケースの解析には、周波数応答法(FRA法)が主として用いられてきたが、あくまでも動作状態を確認する一手法でしかない。最終回となる今回は、この課題について1つの検討方法を紹介する。

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SW電源の解析手法について

 このようにStep応答法を含めて主な4つの手法はほぼ同じ結果を示します。つまり、どの手法を用いても得られる結果について大差はないということです。

 結果が同じであれば苦労が少ないもの、つまり状態平均化法、あるいは"どうしても実機との相関を採りたい"のであればStep応答法を用いるのが良いかと思います。ただし、Step応答法は位相回転を測定できないので状態平均化法と組み合わせることが必要です。


図2:特性曲線例

 このようにして得られた2次遅れ系を表す周波数特性(図2)からピーク周波数(ωP)、定常利得(G0)、ピーク利得(GP)を読み取れば次のようにして線形化モデルを作成することができます。


1.GpとGoの値から十進数での△Gを計算します。

   △G=Gp/Go  …4式

2.Qを計算します

3.ωoを計算します

4.最終的な伝達関数はT(s)は次のようになります。

 このようにして得られたモデルに制御系、入力電圧の系を加えればSW電源の線形化モデルを構成することができます。ただし、負荷抵抗はパラメータとして入ってくるため負荷急変を検討する場合は系を切り替えるなどの工夫が必要です。

 各部の詳細な波形が欲しい場合はこの線形モデルで得た各部の電圧・電流を実機モデルに初期条件として設定することで時間のかかる実機モデルの安定を待つことなく短時間で詳細波形を求めることができます。


実機測定におけるFRA法の課題とStep応答法の利点

 冒頭で述べたようにSW電源の安定性評価には市販されている周波数レスポンス・アナライザ(FRA)によるFRA法が使われることが多く、顧客への報告があるQA部門は今でもFRA法を使用しています。

 しかしながら、30数年間のSW電源の開発・設計期間を通じて経験的には設計者にはFRA法よりも今回紹介したStep応答法の方が良いのではないかと感じていましたので、普段紹介されることの少ないStep応答法について連載の最後として取り上げさせていただきました。

FRA法の課題
 1.測定は1条件/回であり、入出力条件を含む仕様範囲を網羅することが困難。
 2.定常状態しか測定できないので過渡的に発生する現象は見つけにくい。
 3.信号注入の為に回路パターンを切断し加工するので出荷品の特性を測定することは
   できません。
 4.異常なピークが検出されても何がピークの原因になっているのか分からず場当たり
   的な検討になりやすい。

Step応答法の利点
 なお、実機の改造を伴うFRA法に対してStep応答法では電子負荷を用いて負荷条件を変化させる手法が簡便なため汎用的に用いられます。それでも基本伝達関数と制御、時比率D、及び負荷の各制御ループを含めて測定できるので実際の設計現場においては次のような利点があると考えられます。

 1.電子負荷を用いて負荷変動を与えるので系の振動のしやすさをオシロスコープで目
   視判定できます。
 2.オシロスコープで観測するので過渡的に発生する異常動作も検出できます。
 3.負荷条件を連続可変できるので評価条件の設定が容易です。
 4.負荷変動を発生させながら入力電圧を可変できますので幅広い範囲を連続的に観測
   できます。
 5.実機の改造が不要のため、出荷品でも測定できます。

制御精度と必要ループ利得

 制御の不安定性を取り除く特効薬は制御利得を下げることです。では誤差増幅器にどの程度の利得があれば充分な精度が得られるのでしょうか? TL431(Vref=2.5V)を例に検討してみます。

目標精度(変動幅):1%(温度変動、負荷変動、入力変動、相互干渉を含む。±0.5%相当)
PWM三角波振幅:1〜5VP(4VP-P)

 つまり、2.5Vの1%変動がPWM制御の全振幅(0〜100%)に換算されれば良いわけですから25mV→4Vに増幅できれば良いことになります。つまり必要利得GAMPは4式のようになります。

 意外に低い利得で充分な制御精度が得られることに驚かれた方もおられるかも知れません。逆に言うと、このような低い利得をICで実現することは困難で、連載22回で紹介した「オペアンプ」とは真逆な考え方が必要なのです。数多いICの中でTL431は成功した貴重な例といえるでしょう。

謝辞

 25回に渡って拙文を掲載していただきました関係者各位のご高配に感謝し、今回のシリーズはこの記事をもって終わりとさせていただきます。長い間、拙い文章をご愛読くださいましてありがとうございました。

 いろいろ書き飛ばした所もあるかと思いますが、「もっと聞きたい」などのご要望があればセミナーやCAE懇話会などで気軽にお声を掛けてください。都合のつく限りご要望にお答えしたいと思います。

(おわり)

連載「SPICEの仕組みとその活用設計」一覧

執筆者プロフィール

加藤 博二(かとう ひろじ)

1951年生まれ。1972年に松下電器産業(現パナソニック)に入社し、電子部品の市場品質担当を経た後、電源装置の開発・設計業務を担当。1979年からSPICEを独力で習得し、後日その経験を生かして、SPICE、有限要素法、熱流体解析ツールなどの数値解析ツールを活用した電源装置の設計手法の開発・導入に従事した。現在は、CAEコンサルタントSifoenのプロジェクト代表として、NPO法人「CAE懇話会」の解析塾のSPICEコースを担当するとともに、Webサイト「Sifoen」において、在職中の経験を基に、電子部品の構造とその使用方法、SPICE用モデルのモデリング手法、電源装置の設計手法、熱設計入門、有限要素法のキーポイントなどを、“分かって設計する”シリーズとして公開している。


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