マージンのない電源の危険性:Wired, Weird(3/3 ページ)
今回は、PFC(力率改善)回路が登場した頃に設計されたと思われるスイッチング電源の修理の模様を紹介する。電源設計において何を最優先すべきかを、あらためて再認識させる故障原因だった――。
思い出された20年前の経験
約20年前、筆者が装置の設計開発に携わっていた頃のことだ。ある顧客から“安全に配慮して電解コンデンサーに印加する電圧は耐圧の80%以内にして20%ほどマージンを持たせること”という指示があり、全ての電解コンデンサーの使用電圧を確認した経験だ。
今回修理しているPFC電源では、一次電圧がDC380V。20年前の顧客の安全基準を当てはめると、DC380Vが80%になる耐圧456V以上の電解コンデンサーを使わなくてはならないことになる。
しかし、このような高耐圧で容量が大きい電解コンデンサーは当時、存在しなかった。今回の修理品が、製造されたころも、同様の状況だったはずだ――。
より高耐圧の電解コンデンサーに交換
修理で同じ耐圧DC420Vの電解コンデンサーを取り付ければ、また破裂事故が発生する可能性が高そうだ。このため耐圧が高いDC450Vの電解コンデンサーで同一サイズのものを探した。その結果、破損品と同じ大きさの部品が、なんとか見つかり、これを再実装した。AC100V電源を投入して一次整流電圧を測定した。その波形を図4に示す。
図4でこの電源は電源投入時にAC100Vを約130Vで整流し、その後426Vに整流していた。これで耐圧420Vの電解コンデンサーに426Vが印加されていることが分かる。これが電解コンデンサーの破損原因だ。もちろん、修理依頼主にはこの調査結果を報告した。
電源は安全第一で設計すべき
今回の修理で電解コンデンサーの定格電圧の80%未満で使うことの重要性を強く再認識できた。やはり、電源は安全第一で設計すべきだ。PFCという技術が出始めた20年ほど前のPFC電源では、電解コンデンサーの耐圧を超えて電圧が印加されている危険な電源が他にも多数存在する可能性が高い。
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