国境なき電解コン劣化問題:Wired, Weird(3/3 ページ)
米国製の温調器の修理依頼が舞い込んできた。海外製温調器の修理は初めてだ。いざ修理を始めると、故障原因は国内製品と大差がなかった――。
2個の電解コンデンサーが少し怪しい……
さて、電源部で重要な電解コンデンサーを確認してみた。図5に示す。
この温調器には電解コンデンサーが3個あり、一次電源、アナログ電源、表示・出力電源の3個と思われた。一次電源の電解コンデンサーは表示容量100μFに対し実測容量は95μFで、ほとんど容量抜けしていなかった。しかし、アナログと表示用の2個の電解コンデンサーは少し怪しい……。怪しい2個のコンデンサーは基板の右側に配置されているが、実装したままでは容量は測定できなかった。ハンダ面の写真を図6に示す。
図6で赤四角で囲んだ部分が表示用の電解コンデンサーのハンダ付けされたリードだ。詳細に確認するとハンダ付けされたランドに割れが見えた。リード周辺にも液が広がった跡が見られ、100μFの電解コンデンサーの左側リード(マイナス側)から電解液が漏れているようだ。この状況からして、電解コンデンサーの劣化は明確であり、このコンデンサーの劣化が電源の電流供給能力低下の原因に違いない。
電解コンデンサーを外して確認しようと、電解コンデンサーのリードのハンダを溶かしたがリードは思うように抜けなかった。ハンダが溶けた時に強めの力で電解コンデンサーを1つずつ引き抜いた。この時、電解液が焼け、例の“強烈な匂い”があった。この臭いで電解液が何かも分かった(いつも連載を読んでいただいている読者ならお気付きだろう)。取り外したコンデンサーと基板部品面の写真を図7に示す。
図7で電解コンデンサーの下に電解液が漏れ、基板上に広がっているのが見えた。基板の上側のコネクターのリードの被覆も少し変色していた。電解コンデンサーと基板上に広がった電解液を布で拭き取った。その後、基板の表面をアルコールで拭いてクリーニングした。基板から外した電解コンデンサーの容量を単体測定したが表示容量100μFに対し実測106μF、表示220μFのコンデンサーも実測158μFと、あまり容量は抜けていなかった。2つの電解コンデンサーは国産品であり、型名には“PL(M)”と記載されていた。この型名には記憶がある。型名と電解液が焼けたあの強烈な臭いから悪名高き“4級アンモニウム塩”の電解コンデンサーだと判明した。温調ユニットの修理を販売業者から断られた理由は、“米国製だから”ではなく、これにあると推定された。
電解コンデンサーが起因する故障に国境はない
代替の電解コンデンサーを探して25V 100μFと35V 330μFの電解コンデンサーを取り付けた。温調器を再び組み立て、パネルに実装して再配線を行って元に戻した。センサー(TC)を接続しAC100Vを通電したら2つの温調器の表示が正常に点灯した。ヒーター出力のコネクターの電圧を測定したら2つともAC100Vが出ていた。パネルの設定を操作して動作確認したが、全て正常動作していた。これで修理完了だ。
今回は米国製の温調ユニットの修理にトライした。修理の完成度を上げるには修理品の技術情報が不可欠だが、米国製の製品はWebを探せばなんとか情報を得ることができた。ただし、英文ではあるが……。
何かと問題が多く、この連載でも何度も登場する「4級アンモニウム塩の電解コンデンサー」は米国製品にも使用されていた。電解コンデンサーが起因する故障には国境はなかった。4級アンモニウム塩の電解液が使われた電解コンデンサーが使われた古い装置は国内にとどまらず、世界中にまだ残っているようだ。
この危険な電解コンデンサーとの戦いはまだまだ終わらない――。
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