フェライト(3) ―― 電子部品としてのフェライト:中堅技術者に贈る電子部品“徹底”活用講座(3)(2/4 ページ)
電子部品について深く知ることで、より正しく電子部品を使用し、「分かって使う」を目指す本連載。フェライト編第3回は、フェライトに代表される脆性(ぜいせい)材料の使い方と電子部品としてのフェライトの製造法について詳しくみていきます。
ソフトフェライトに使われる主な材料グループ
【1】主原料である酸化鉄は、フェライト黎明(れいめい)期の昭和10年代は鉱業の副産物などから得られる硫酸鉄系が用いられていましたが昭和40年以降は製鉄所などで鋼板の熱処理後のサビを酸洗いして得られる塩化鉄系の酸化鉄が用いられています。純度は99.5%程度のものですが、最近の高性能フェライトでは99.9%以上の純度を必要とするものもあります。
塩化鉄系酸化鉄にはClが多量に(2~3%)含まれていますが、Clはフェライト成分にも作用して特性の劣化となりますので0.2%以下のものが主に使われます。
また、後述する微量添加剤の効果を上げるためには酸化鉄に含まれるSiO2、CaOなどの不純物はできる限り少ない方が効果的です。SiO2は一般品で100〜250ppm、高純度品では70~100ppm以下のものもあります。
【2】フェリ磁性のための副材料としては、酸化亜鉛、酸化マンガン(炭酸マンガン)、酸化ニッケルなどの酸化物があります。
マンガン系ソフトフェライトの主な配合比(Wt%)は、酸化鉄(70%)・酸化マンガン(20%)・酸化亜鉛(10%)程度ですが、配合比を変えるとBmsやコアロス最小温度などが変わります。
【3】企業ノウハウになる微量な添加剤としては次のようなものがあります。
CaO、SiO2→粒界層厚 V2O5,Bi2O3,In2O3→粒径大
Ta2O5,ZrO2→粒径小 B2O3→粒成長促進
MoO3,Na2O→粒成長抑制 SnO2,TiO2など→Bms、キュリー温度、温度特性
もちろん、使用する原料は、フェライトの種類、用途によって不純物の種類、許容量などが異なりますし、メーカーごとの微量添加剤は組み合わせによっても効果が異なります。あくまでも一例にすぎません。
これらの材料を用いた乾式法による工程の流れを表2に示します。
製造工程・製造設備ごとに材料や設備の管理点がありますが、ケース・バイ・ケースになりますので詳しくはフェライト部品の納入仕様書に添付されるQC工程表を参照してください。
(なければメーカーへ要求してください)
工程 | 内容 | 設備名 |
---|---|---|
混合 | 原料を目的の組成となるように計量し、混合機で混ぜあわせます。原料がなるべく均一に、しかも早く混合するような適切な混合機が選ばれます。化合物(炭酸塩、水酸化物、蓚(シュウ)酸塩、硝酸塩など)を添加する場合もあります。各粉末の平均粒子径は、0.1μ~3.0μm程度です。 | 混合機:ニーダー、ブレンダーなど 混合&粉砕機:ボールミル |
仮焼成 | 原材料の熱分解や成分の均質化を行い、規格外の超微粉を焼成によって溶解し適度の粒子サイズへ粒成長させます。また、フェライト化の進行と本焼成時の寸法歪を軽減するために、混合された原料を本焼成温度よりも低い700~1000℃で最大5時間程度仮焼します。 (粉末のまま、あるいは仮焼成用に成形するか、スラリー(泥)状にて焼成) また、ガスを生成する原材料を用いた場合は本焼成の時にガスの影響が出ないように熱分解を行います。そのため、窒素または大気雰囲気中で行われます。 |
ロータリキルン、トンネル炉、バッチ炉など |
粗粉砕 | 成形時に成形密度が高くなるような粒度分布にする目的の他、本焼成のときに焼結反応が起こりやすいようにするため仮焼成された原料を粗粉砕機を用いて粗粉砕(平均粒子径は数μm程度)を行います。 | ジョークラッシャ、アトマイザ、スタンプミルなど |
微粉砕 | 次に1μm以下に微粉砕します。微粉砕には粉砕媒体を使用するボールミルやビーズミルなどが用いられますが、振動ミル、塔式粉砕機も用いられます。粒径によって粉砕媒体径や湿式、乾式などを選びます。 | 振動ミル、ジェットミル、塔式粉砕機、ボールミル、ビーズミルなど |
造粒* | 成形に適した粒径にするために、加圧造粒法やスプレードライ法1)などの造粒法を用いて、粉砕したフェライト粉末を適度な大きさの顆粒とします。 結合剤にポリビニルアルコール(PVA)、潤滑剤にワックス、ステアリン酸塩などを用いて、30μ~200μm程度の顆粒にします。 |
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1)スプレードライ法:粉砕材料に、結合剤を加えてスラリー状にした後、スプレードライヤー中で霧化し、乾燥する工法。 | ||
成形 | 目的の最終形状に加圧成型します。通常成型圧力は1~2(t/cm2)程度ですが高すぎるとコアのヒビ割れの原因になり、金型内の圧力不均一は成型品の形状異常になります。気泡がなく、均一で高密度に成形するには1軸方向だけの加圧では難しく、静水圧加圧などが用いられますが大型化には向いていません。 | 成型機 金型 |
本焼成 | フェライト化の化学反応と同時に、焼結によって一体化させ、密度と機械的強度を高めます。 酸素と高温で反応(吸収・放出)するので高性能なフェライトには焼成時の酸素濃度(雰囲気制御)が必須です。また焼成時に急激な昇温を行うと材料中に含まれていた粘着剤などが急に放出されるので、ひび割れができたり噴出口ができたりすることがあります。 加熱温度、時間は密度、結晶組織、結晶粒の大きさなどに影響しますので、焼成温度は900~1,500℃ぐらいの範囲で調整され、焼成の総時間は10~100Hr程度ですが、昇温・冷却の条件によっても損失などの特性が変わります。 成形品に含まれる種々の有機物が熱分解されて酸素が放出された結果、炭素が残りますがコアロスの面から100ppm以下に抑制する必要があります。 |
抵抗電気炉 トンネル炉(連続焼成用) |
研磨 | 実効透磁率がコアの突き合わせ面の微少ギャップによって急激に減少しますので、焼成したコアの表面をさらに加工して平面にします。ギャップについてはノーギャップや所定のギャップ長に仕上げるケースがあります。 フェライトは、陶器や石に近い物性なので切削加工には向かず、研磨加工で仕上げます。研磨剤はSiC(商品名カーボランダム)などが使用されます。 |
表面ラップ盤、表面研磨盤など |
*)2度焼きしたり、2種類の仮焼成温度で焼いたりした粉末を混合して用いるケースもあります。 |
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