漏れインダクタンスを使用したフライバックコンバーター(2) 平均モデル化:電源設計(4/4 ページ)
本連載の第1回では、漏れインダクタンスによってもたらされるスイッチング効果について説明しました。実効デューティ比の低下により、2次側ダイオードの導通時間が長くなり、メインスイッチがターンオフした後、2次側電流が変化するまでの遅延が発生します。その結果、元の式による予測値よりも出力電圧が低くなり、RCDクランピングネットワークでの消費電力が増加します。動作波形において漏れに関連する項が及ぼす影響を考慮した場合、フライバックコンバーターの小信号応答に与える漏れの影響を検討するのは興味深いことです。ただし、小信号分析を実行する前に、適切な平均モデルが必要になります。
カソードで観測した電圧を比較
Ipは式(12)で計算された値なので、式(14)を使用してモデル化した電流源の両端にRCネットワークを接続でき、それによって平均クランプ電圧が求まります。SPICEでこの電圧を使用して、式(13)で説明した通りd2を求めます。この式のピーク電流は、負荷抵抗の両端に印加される出力電圧に依存します。第1回で説明したように、この電圧はd1に依存します。シミュレーションを実行すると、SPICEは最終的に6個の未知数と6個の連立方程式を解きますが、正しい答えが求まらない可能性もあります。正しい結果に収束するように、.NODESETステートメントを使用して「シード」を指定すると、効率的に正しいバイアスポイントに導くことができます。このシードはクランプ電圧であり、実行前にSPICEに対して示唆することができます。最終的な大信号モデルを図10に示します。追加したコマンド行は、NODESET V(clp)=300Vです。
現在の実行内容は、サイクル単位のモデルからの負荷ステップ応答を、更新後の平均モデルからの負荷ステップ応答と比較する操作が含まれます。1μH、10μH、30μHという複数の漏れインダクタンス値を選択しました。図11、図12、図13で確認できるように、サイクル単位のモデルと平均バージョン間での一致率は非常に優れています。
これらの図の左側は広域的応答を大縮尺で示し、右側は平均モデルがスイッチモデルをどれほど良好に追跡しているかを確認できるよう拡大表示バージョンを示しています。クランプ電圧には特にDCレベルでわずかな違いが生じています。この電圧はt2の持続時間に依存します。この電圧は非常に小さい値になることもあります。このパラメーターの予測に開きがあると、最終的に大きい差につながります。
図14では、両方のモデルにおいてクランプダイオードのカソードで観測した電圧を比較します。両方の曲線は十分一致しており、オフセットの違いはわずかですが、この差異のために2.5%の誤差が生じています。この誤差はlleakが増えると大きくなりますが、lleakの値が大きい場合でも、誤差は十分10%以内を維持します。
これらの実験は、漏れインダクタンスを説明する大信号モデルがサイクル単位バージョンとよく一致するため、線形化を実行するときに検討できることを裏付けています。
まとめ
今回(第2回)では、漏れインダクタンスがCCMで動作するフライバックコンバーターの過渡応答をどのように減衰させるかを確認しました。PWMスイッチモデルを使用し、漏れインダクタンスの寄与成分を含める方法で、サイクル単位バージョンを模倣する平均モデルを構築できました。このことは、今回採用したアプローチが正しいことを確認するのに役立ちました。最終回になる第3回は、コンバーターの小信号応答を解明します。
参考資料
1.V. Vorperian,“Simplified Analysis of PWM Converters Using the Model of the PWM Switch, Parts I (CCM) and II (DCM),” Transactions on Aerospace and Electronics Systems, vol. 26, no. 3, May 1990
2.C. Basso, “Switch Mode Power Supplies: SPICE Simulations and Practical Designs”, second edition, McGraw-Hill 2014, ISBN 978-0071823463
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