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高速、高電圧絶縁のための絶縁LVDSバッファ新しい絶縁LVDSデバイスが登場(3/3 ページ)

絶縁と長い距離にわたる高速相互接続を両立する場合、絶縁LVDS(低電圧差動信号)バッファが有効です。そこで、絶縁LVDSバッファの活用例を紹介するとともに、昨今の絶縁要件などを考察し、最新の絶縁LVDSバッファソリューション例を紹介します。

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主な要件と仕様

 絶縁LVDSバッファの絶縁仕様は、最終的なアプリケーションと、障害状況下を含む動作時の絶縁バリアにかかる予測電圧によって異なります。これらの要件は、ACモーター駆動向けIEC 61800-5-1安全規格やテストおよび、測定アプリケーション向けIEC 61010-1安全規格のような、最終機器の電気的安全規格から導き出せます。

 例えば、絶縁LVDSバッファを1000VRMS定格のモーター駆動アプリケーションで強化絶縁に使用する場合、その絶縁LVDSバッファは4400VRMSで5秒の短時間過電圧仕様、12kVPKのサージまたはインパルス電圧、1500VPKの動作電圧、14mm以上の沿面距離と空間距離を満たす必要があります*1)。ICに使用されるパッケージ材料の比較トラッキング指数(CTI)も重要であり、絶縁する2つの側の間で反復的または継続的な高電圧を処理するアイソレーターの能力が、これによって制限されたり強化されたりします。

 絶縁LVDSをグランドループ絶縁のみに使用する場合は、数百ボルトの機能絶縁だけで十分です。

 LVDSトランスミッターおよび、レシーバーの電気的特性は、TIA/EIA-644-A LVDS規格によって定められています。この規格に基づくトランスミッターピンでのピーク差動出力は、100Ω抵抗で終端した場合に約400mVとなります。差動レシーバーの感度は100mVです。TIA/EIA-644-A規格には、トランスミッターとレシーバーの間のケーブル長に対する制限はありませんが、与えられたデータ信号速度での最大ケーブル長を求める方法が提示されています。設計者はケーブル内で発生する抵抗性の電圧降下、ジッター、クロストークを考慮する必要があります。データ速度やケーブル特性によっては、数メートルやそれ以上の距離での通信も可能です。記事末に紹介する参考資料*2)で一部の実験データを紹介しています。

 過酷な産業環境で使用される絶縁アプリケーションには、ノイズ耐性と同相過渡耐性が不可欠です。シールド付きツイストペア差動ケーブルを使用することで、LVDSラインを介した伝送の干渉耐性が強化されます。ただし、絶縁LVDSバッファで使用される絶縁コアにも同程度の耐性が必要です。電磁気やその他の外乱は、絶縁バリアを越えて同相ノイズとして発生します。同相過渡耐性(CMTI)は、絶縁コアの堅牢性を測る上で優れた指標となります。


画像はイメージです。

 LVDS信号の主な利点は、トランスミッターでの差動動作から生じる電磁放射や出力スイングの小ささ、および同相ノイズを制御できる点です。この利点をシステムレベルで維持するには、やはり、絶縁LVDSの絶縁コアの電磁放射が非常に小さくなければなりません。同様に、LVDS信号の低消費電力という利点を維持するには、高データ速度時でも絶縁コアでの消費電力を低く抑える必要があります。

 サポートされる最大データ速度、アイソレーター経由での伝搬遅延、隣接チャンネル間のスキューはどれも重要です。モーター制御アプリケーションには、50M〜100Mビット/秒(bps)のデータ速度が必要になる場合があります。SPIアプリケーションでは低伝搬遅延が重要であり、2つのLVDSチャンネルを介してクロックとデータが伝送されるシステムでは伝搬遅延スキューが重要となります。

既存のソリューションにおける制限

 従来型の高速、高電圧絶縁は、光ファイバリンクや高電圧トランスおよびコンデンサーを使用したカスタム設計、デジタルアイソレーターと非絶縁LVDSバッファの組み合わせによって実現されてきました。光ファイバリンクは高価で設計に組み込みにくい部品です。ディスクリートの高電圧トランスおよび、コンデンサーを使用したカスタム実装は、大きな基板面積を占め、消費電力が増大する他、電磁気互換性(EMC)や信号の整合性を考慮した慎重な設計が必要とされ、動作電圧が高いと高価になります。デジタルアイソレーターと非絶縁LVDSバッファの組み合わせは基板面積を要し、チップ間の配線による信号の劣化もあります。完全に統合された絶縁LVDSバッファは、このような従来型の手法に対する低コストかつ洗練された代替ソリューションとして利用できます。

 前述したようなアプリケーションの要件に対応するため、現在は新しい絶縁LVDSデバイスが市場で提供されています。例えば『ISO7821LL』、『ISO7821LLS』、『ISO7820LL』(いずれもTexas Instruments製)などです。これらのデバイスは、最大150Mbpsのデータ速度、最大2kVRMS/2828VPKの動作電圧、12.8kVPKのサージ、5.7kVRMSの耐久電圧を実現できます。材料グループIのモールドコンパウンド(比較トラッキング指数は600V超)を使用した沿面距離8mm、空間距離14.5mmのパッケージで供給されます。これらのデバイスは最小CMTIが100kV/マイクロ秒で、2.25〜5.5Vという広範囲の電源電圧で動作し、150Mbpsでチャネルごとに10mAの低電流を消費します。絶縁LVDSバッファを使用することにより、低コスト、低消費電力、低放射、および長距離にわたる安定した通信リンクを実現しつつ、高電圧絶縁を提供できます。


【参考資料】
*1)データ・シート:「ISO7821LL」、「ISO7821LLS」、「ISO7820LL
*2)ホワイト・ペーパー:「Isolation in AC Motor Drives:Understanding the IEC 61800-5-1 Safety Standard

筆者プロフィール

Anant Kamath(アナン・カマス)/Texas Instruments システムおよびアプリケーション・マネージャ

 現在は、高性能アナログ製品の新規開発および、既存の産業用/車載用製品のアプリケーション・サポートを統括。フェーズロック・ループ(PLL)およびクロック・システム、高速シリアライザ/デシリアライザ(SerDes)、高電圧デジタル絶縁デバイスの設計など、広範な経験を有する。インド工科大学マドラス校卒業(電気工学科学技術 学士号取得)


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