ESDによる不具合発生メカニズムと対策のヒント:マイコン講座 ESD対策編(1)(4/4 ページ)
今回から2回にわたり、マイコンを使用する上で必要不可欠な「ESD対策」について解説していく。第1回は「ESDの破壊モード(メカニズム)」と「ESDの主な発生要因とその対策」を取り上げる。
(2)製造装置が帯電する場合
マイコンをプリント基板に実装する工程は、人が直接作業を行うケースはほとんどなく、オートハンドラーと呼ばれる自動装置で行われる。この装置で使用されている部品や材料に、帯電する素材を使用していると、そこに静電気がたまり、マイコンに放電する。この場合も数百ボルトから数千ボルトになるので、マイコンにとっては相当な衝撃になる(図3(b))。
通常、マイコンを取り扱う製造装置には、電荷が帯電しない材質(導電性)のものを使用するが、それでも見落としがあり、静電気が帯電する素材を使っていた場合がある。過去の不具合事例を2つ紹介しよう(図5参照)。
1つは、装置内部で使っているベルトのゴムに絶縁性の材質を使ってしまい、そこに静電気が帯電してESDでマイコンを破壊してしまった例だ。ある特定のオートハンドラーで処理すると、数パーセント以下の確率ではあるが、マイコンが破壊されるという事象が確認された。本体は金属なので問題にならないが、可動部にはゴムなどが使われている。通常は導電性のゴムが使われるが、再チェックの結果、最初の素材チェックで見落としがあり、絶縁性のゴムが使われていることが分かった。対策として、導電性のゴムに取り替えたところ、マイコンの破壊は全くなくなった。
もう1つは、塗料に絶縁性の材質を使っていた例だ。通常塗料は絶縁性なので、半導体を扱う装置では、特別に導電性の塗料を使うようにしている。ところが、これも素材のチェックで見落としがあり、絶縁性の素材が使われて、マイコンを破壊してしまったという例だ。どちらの例も、歩留まり低下率は非常に小さいが、未対策のまま生産を継続していたら、累積損害額は大きくなるところだった。
(3)マイコン本体が帯電する場合
マイコンの本体は絶縁性の素材でできているので、ここにも静電気は溜まる。すなわち、マイコン自身も帯電する。マイコンに帯電した電荷が、すぐ近くにある端子に放電されると、これもESDになる(図3(c))。マイコン本体への帯電を防ぐには、プリント基板への実装工程などで、周辺から帯電する経路を作らないことがポイントだ。マイコン自体ではないが、完成したプリント基板を保管収納するケースや保管する棚、作業用机が絶縁素材を使っていると、それも帯電しESDは発生するので、マイコンの保管環境の素材にも配慮する必要がある。
筆者プロフィール
菅井 賢(すがい まさる)
(STマイクロエレクトロニクス マイクロコントローラ製品部 アプリケーション・マネージャー)
日系半導体メーカーにて、25年以上にわたりマイコンの設計業務に携わる。その後、STマイクロエレクトロニクスに入社し、現在までARM Cortex-Mプロセッサを搭載したSTM32ファミリの技術サポート業務に従事。ARMマイコン以外にも精通しており、一般的な4ビットマイコンから32ビットマイコンまで幅広い知識を有する。業務の傍らマイコンに関する技術論文や記事の執筆を行っており、複雑な技術を誰にでも分かりやすい文章で解説することがモットー。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 不良解析レポートを理解するための基礎知識 ―― 一次物理解析&電気的特性評価
マイコンをより深く知ることを目指す新連載「マイコン講座」。今回から3回にわたって、マイコンメーカーが行っている「不良解析」を取り上げる。メーカーから送られてくる不良解析レポートの内容を理解するための、不良解析に関する基礎知識を紹介していく。 - ESDとEOSの違いと対策法
マイコンユーザーのさまざまな疑問に対し、マイコンメーカーのエンジニアがお答えしていく本連載。今回は、初級者の方からよく質問される「ESDとEOSの違いと対策法」です。 - ESD対策新時代
携帯電話端末に代表される電子機器の高速化、低消費電力化などに対応するために、新しいデバイス構造を採用した製品の開発が進んでいる。しかし、そうした構造はESDに対し脆弱であることが確認されており、従来の手法では不十分となってきた。本稿では、新たなデバイス構造にも対応可能な最新のESD保護回路設計についてまとめる。 - ESD/イミュニティ試験の基礎をつかむ
電子機器の動作にさまざまな影響を与えるESD(静電気放電)への対策を講じるには、ESDの試験法について理解しておく必要がある。本稿では、デバイスレベルとシステムレベルに分けてESD試験の手法を説明する。また、産業用機器の開発で利用する機会の多いイミュニティ(耐性)試験も紹介する。 - 汎用I/Oの構造はどうなっているの? 使い方は?
マイコンユーザーのさまざまな疑問に対し、マイコンメーカーのエンジニアがお答えしていく本連載。今回は、初心者の方からよく質問される「汎用I/Oの構造と使い方?」についてです。