DC-DCコンバーターの出力過電圧保護と入力過電圧保護:DC-DCコンバーター活用講座(21) DC-DCコンバーターの保護(2)(3/5 ページ)
今回は、DC-DCコンバーターの出力過電圧保護と入力過電圧保護について解説します。
バリスタ
バリスタは、印加電圧によって抵抗が変化する電圧依存抵抗(VDR)です。バリスタにはセレンやシリコンカーバイドを含むさまざまなタイプがありますが、最も一般的に使われるのは金属酸化物バリスタ(MOV)です。MOVは、ZnOを押し固めて焼結した多数の微粒子で構成されています。粒子の境界では半導体接合と同様の接合効果が得られるので、VDRの内部構造は、直列および並列回路の配列として接続された数百個のバックツーバックダイオードに例えることができます。印加電圧がダイオードの降伏電圧未満の場合はほとんど電流が流れませんが、降伏電圧を超えると電流量が急激に増加します。極めて多数のダイオード接合が組み合わされているため、降伏電圧を最大数百ボルトという非常に高い値にすることができます。ダイオードはバックツーバックペアのため、その効果は対称的で、MOVは正電圧と負電圧の両方からコンバーターを保護することができます。
図4に示す電流電圧特性は、式1に示すべき乗則に従っています。
kは素子固有の定数で、αは屈曲点以降の曲率を表します。異なる保護素子におけるαの標準的な値は以下の通りです。
α=35 | 過渡電圧サプレッサダイオード |
---|---|
α=25 | MOV |
α=8 | セレン電池 |
α=4 | シリコンカーバイドVDR |
MOVは応答時間が短いので、過渡と持続時間の長いサージの両方に使用できますが、マイクロ秒以下の時間のESD過電圧を抑制できるほど高速ではありません。さらに、繰返し過電圧パルスによって損傷する可能性があります。これは、内部粒子構造の不均一性によって局部的な温度上昇が生じ、これが段階的な性能低下をもたらすからです。多層MOV(MLV)は、より多くの繰返しパルスに耐えることができるようにこの劣化を遅らせることを試みたものですが、内部電力消費が大きくなり過ぎると、全てのMOVが溶解して致命的な損傷を招く結果となります。従って、MOVは常に入力ヒューズとともに使用する必要があります。エネルギー定格(ジュール単位)は、繰返しスパイクに対するMOVの予想寿命を表す値で、これは素子を選択する際の重要な要素です。
サプレッサダイオード
VDRと異なり、サプレッサダイオードによる保護は1つのダイオード接合により実現されますが、電流経路の断面積ははるかに大きくなっています。サプレッサダイオードは過渡電圧サプレッサ(TVS)、シリコンアバランシェダイオード(SAD)サプレッサ、あるいはその他さまざまな商品名で呼ばれています。ユニポーラV/I特性はツェナーダイオードと同じですが(図5参照)、サプレッサダイオードは、ピーク対平均電力比がはるかに大きくなるように作られています。
図5から分かるように、サプレッサダイオードは第一象限(右上)では順方向の通常ダイオードとして、第三象限(左下)では逆方向のツェナーダイオードとして動作します。第三象限の特性は3つの値の組み合わせによって決定されます。まず、逆電流IRMにおける公称電圧VRM(スタンドオフ電圧)で、これは漏れ電流による電源の追加的負荷を示します。次が逆電流IRにおける降伏電圧VBRで、特性曲線はこの位置で傾きを変え始め、わずかな電流の変化でもダイオード電流に大きく影響します。そして最後がクランピング電圧VCLで、最大許容電力IPPにおいて値が指定されます。サプレッサダイオードは、通常動作電圧がVBRに近くなるように選ぶ必要があります。ただし、VBRを超えないようにしなければなりません。さらに、電流制限抵抗が必要になることがあるので、IPPを超えないように注意してください。
サプレッサダイオードはユニポーラデバイスなので、対応できるのは正の過電圧だけです。従って、ほとんどのTVSパッケージには、正のスパイクと負のスパイクを両方クランプするために、2つのサプレッサダイオードがバックツーバック形式で組み込まれています。MOVに対するサプレッサダイオードの利点は、繰り返しスパイクによる劣化がないことと、降伏電圧が低くVBR値がより正確なことです。従って、低電圧電源ラインと信号ラインの両方を保護することができます。
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