接点部品(3)――SWの選択のポイントと使い方:中堅技術者に贈る電子部品“徹底”活用講座(24)(2/2 ページ)
前回まではスイッチ(SW)の基本構造や接点の定格表示、表面処理、硫化現象などについてその概要を説明してきました。今回はSWの選び方と注意点について説明します。
SWを選定する時の注意事項
SWの特徴は内部に接点切り替え用のバネなど、応力を発生させるメカニズムを内蔵している点にあります。このような特徴はLCRなど純電子部品にはなく、SWやリレー、サーキットブレーカーなどエレメカ部品の特徴ともいえるものでものです。
したがって応力が掛かっている樹脂成型品にはんだ付けの熱が伝わると、成型品は熱硬化性樹脂であれ、熱可塑性樹脂であれ、大なり小なり軟化して内部変形を引き起こします。
熱によって変形した成型品はその後の熱の除去とともに再硬化しますので歪んだままのSWは故障率や感触などが劣化してします。そのためSWなどエレメカ部品は後述する表3に示すように熱に対して細心の注意を払う必要があります。
またSWは操作部に力を加えて切換動作をさせます。ですから操作に必要な応力をキチンと受け取るために取り付けにも細心の注意が必要です。取り付けにガタがあったり、プリント配線板(以下、PWB)の取り付け穴が緩すぎてはんだ部に応力が掛かったり、本来の操作方向とは異なる方向に応力が加わる構造になっていたり、ストロークを制限しなかった場合などは本来の寿命を全うできなくなります。
特に機械的な知識、経験が十分でない多くの電気系の設計者は少なくとも表2の配慮はすべきでしょう。
この応力に対する配慮以外にもSW選定に当たって確認、チェックすべき項目を表3に示します。
大項目 | 小項目 | 確認、チェックすべき内容 | |
---|---|---|---|
一般事項 | SWの寿命回数および、寿命因子(接点寿命、機械的寿命) 機器の安全規格とSWが取得している安全規格の確認 安全規格の要求内容 難燃性が必要な場合はUL94Vグレードを指定 SW単体で指定がなくても、特定電気用品および、電気用品に指定された機器に使用される場合は、それぞれ技術基準に合致しなければなりません |
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安全規格 (電源SW) |
可触操作部の温度、難燃グレード SWの挿入位置 両切り、片切、空間・沿面距離などの確認 |
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電気 | 定格 | 負荷電流波形および、TV(ティブィ)定格の必要性 電圧、電流ディレーティング チャタリングの影響と対策 高周波回路のSWでは接点間、接点〜対地間の静電容量 接点接触抵抗 |
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機械 | はんだ付け | はんだ付け時の熱で内部樹脂成形品が軟化しますので、はんだ付け直後の高温時に振動、衝撃、SW操作などの応力を印加しない ロック機構を持つものは応力が掛からないようにロックを解除して行う SWの下部など目視確認ができないスルーホールからのはんだ上がりの有無 電源電線ははんだが無くても固定されていなければなりません。カラゲ配線の場合には1T以上の巻き付けを行います はんだ付けの温度プロファイルの適合確認 PWB取り付け型のSWにおいては耐フラックス性の保証および、分解、目視によるフラックス侵入レベルの確認1) ガタ、浮き、傾きなどのない状態ではんだ付けを行う 酸化表面用の旧タイプ水溶性フラックスの使用禁止 |
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洗浄 | 一般的なSWは嵌合構造のため洗浄ができません 洗浄可能品で洗浄を行う場合は常温に戻ってから行う 水洗浄用フラックスの場合は洗浄液のクリーン度の重点管理 超音波洗浄の周波数と内部部品の機械的共振の有無の確認 |
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取り付けおよび、 取り扱い |
ネジ止め型は緩み止めを使用し、回転防止ミゾがある場合は使用する 基板上のタクティル(Tactile)型プッシュSWは押し込み制限機構を設ける ツマミを有するSWは印加可能な最大モーメント荷重で評価する 過大応力防止のため機器背面にレバー型SWを配置しない 基板積み重ねによるはんだ付け後のSWへの応力 |
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固定構造 | SW操作時の応力がはんだ部に掛からないように応力を受けるための固定用端子と電気接点用端子を持つタイプを使用 | ||
環境 | 湿度 | 結露条件や液体が飛散する環境では防水型を使用 絶縁材の吸湿、結露による絶縁不良・ショート 金属腐蝕による接触不良、接点異常消耗 |
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使用温度範囲 | 温度サイクル、荷重による成型品クリープ、カシメ不良、熱疲労、はんだクラック 内部潤滑剤の粘度変化による潤滑切れ、動作不良 可動部の寸法変化による接触不良、動作不良、成型品の変形、成型品の低温脆化による耐衝撃性の低下 周辺部品からのガスによる腐食 |
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振動、衝撃 (使用時) |
加振時の接点浮きに伴うチャタリング 共振による各部の破損 衝撃による各部の破損 フレッティングコロージョン2)による接触不良 |
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塵埃 | 異物の侵入、付着等による接触不良 動作不良機構部の磨耗促進 |
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雰囲気 | 油脂 薬品 |
成型品の溶融、分解、応力腐食割れ 金属腐食による動作不良 |
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ガス | 金属、成型品の腐食 銀接点のマイグレーション、耐硫化性 マイグレーションによる絶縁不良・ショート |
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注)保管など、一般電子部品共通の注意事項は記載していません。 1)はんだ付け後の分解チェックによるフラックス上がりの確認は必ず実施してください。 2)フレッティングコロージョン =周期的に繰り返される接触2面間の微小な相対運動に伴って生じる表面摩耗粉が酸化して接触表面に堆積し、接触抵抗を増大させる現象。 |
SWなどの使い方のもう一つの重要な項目であるディレーティングについては次回に説明します。
執筆者プロフィール
加藤 博二(かとう ひろじ)
1951年生まれ。1972年に松下電器産業(現パナソニック)に入社し、電子部品の市場品質担当を経た後、電源装置の開発・設計業務を担当。1979年からSPICEを独力で習得し、後日その経験を生かして、SPICE、有限要素法、熱流体解析ツールなどの数値解析ツールを活用した電源装置の設計手法の開発・導入に従事した。現在は、CAEコンサルタントSifoenのプロジェクト代表として、NPO法人「CAE懇話会」の解析塾のSPICEコースを担当するとともに、Webサイト「Sifoen」において、在職中の経験を基に、電子部品の構造とその使用方法、SPICE用モデルのモデリング手法、電源装置の設計手法、熱設計入門、有限要素法のキーポイントなどを、“分かって設計する”シリーズとして公開している。
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