「メモリレコーダー」とは:メモリレコーダーの基礎知識(1)(4/4 ページ)
電子回路技術者がよく使うオシロスコープとメモリレコーダーはよく似ているが異なるところがあり、それぞれ用途に適した設計となっている。本連載ではメモリレコーダーの歴史、製品の種類、機種選定での留意点、製品の内部構造、使用上の注意点、利用事例の紹介などメモリレコーダーを理解する上での基礎知識を紹介していく。
波形メモリ長が十分であること
観測する波形の周波数成分が広いと、高い周波数成分を観測するために高速なサンプル周波数が必要となり、また低い周波数成分を観測するためには長い時間の波形観測が必要になる。メモリレコーダーで観測する波形には広い周波数成分を含むことが多いため、高速サンプルで大量の波形データをメモリに取り込む必要がある。
例えばインバーター装置の計測では、機械であるモーターの動作と電子回路であるインバーター回路の動作を同時に観測する必要があるため、波形メモリ長が長く、高速サンプリングができるメモリレコーダーが必要となる。
また、発生頻度の少ない現象を捉える時は、メモリ長が長いと突発現象などを捉える確率が高くなるので、原因追及などの作業効率は高まる。
多チャンネルかつ大容量の波形メモリを搭載した最近のメモリレコーダーには高速の波形描画回路が搭載されているため、スムーズな操作が可能となっている。
電源に自由度があること
メモリレコーダーは商用交流電源が使える屋内の利用だけだはなく、屋外で自動車、鉄道車両、航空機に搭載されたり、電源がまったく供給されない場所で使われたりする。このためメモリレコーダーが使われる電源環境にあった製品を選ぶ必要がある。
直流電源に対応していないメモリレコーダーを屋外で利用する場合、自動車のシガーソケットから12Vの直流を得て、市販の車載インバーターを使って交流電源を得る方法があるが、その際は正弦波インバーターを選ぶ必要がある。多くのメモリレコーダーは矩形波インバーターに対応していないので、故障の原因になったり、電源からのノイズで正しい波形観測ができなくなったりする恐れがある。
耐環境性に優れること
メモリレコーダーが利用される環境は屋内であってもさまざまである。インバーターを計測する環境ではコモンモードノイズ、発熱する大型設備がある現場では温度、切削機械の評価現場ではオイルミスト、車載試験では振動や衝撃、農業やメッキの現場では腐食性ガス、製鉄所では鉄粉、土木工事現場では土ほこりなど厳しい環境で使われることがある。そのため厳しい環境で利用する場合は、耐環境性に優れた製品を選ぶ必要がある。メモリレコーダーを厳しい環境から遮断するケースに入れて使うこともある。
安全が確保されていること
メモリレコーダーで商用電源の波形を直接観測したり、差動プローブや絶縁プローブを使ってインバーター内部の高電圧を観測したりする。このため観測する電圧がメモリレコーダーの最大入力電圧を超えないことをあらかじめ確認する必要がある。
また、非絶縁入力モジュールを使って多チャンネルで測定する場合は、安全確保のため観測点のコモンモード電圧が接地電位であることの確認が必要である。
演算、検索機能が充実
メモリレコーダーで観測した波形を見るだけでは波形の特徴を抽出できない場合がある。そのためメモリレコーダーには波形データを演算する機能が搭載されている。一般的なのは周波数成分で表示するFFT機能や、取り込んだ波形にデジタルフィルター処理を行ってノイズ成分を除去する機能がある。また電圧波形と電流波形から電力を求める場合は波形間演算が必要となる。
メモリレコーダーに記録された膨大な波形データから必要な情報を人によって探すことは困難となっているため、最近のメモリレコーダーは波形の特徴を指定すると、記録した波形データから自動的に検索できる機能を持つものがある。
画面表示が多様であること
メモリレコーダーは多チャンネルで測定した波形を同時に表示するだけでなく、演算した結果を観測した波形と合わせて表示することも可能である。
このように多くの情報を限られた大きさの画面内に表示するため、効率的な表示ができる仕組みを持っている。
利用目的にあった画面表示ができる製品を選ぶことは重要である。
操作性がよいこと
最近のメモリレコーダーは多くの機能をコンパクトな筐体に組み込んでいるため、使いたい機能を選んで設定するには、操作をある程度熟知する必要がある。しかし波形観測の度に紙の取扱説明書を見ながら操作するのでは効率の高い利用はできない。
このため直感的な利用ができる操作体系が組み込まれている必要がある。また設定情報の確認が容易になっていることも必要である。
最近のメモリレコーダーは前面パネルのキースイッチを減らして、直感的な操作ができるようタッチパネルが採用されるようになった。
また、メモリレコーダーは多くの機能を持つため、紙の取扱説明書が分厚くなっている。利用の度に取扱説明書を見るのは手間が掛かるため、最近のメモリレコーダーはヘルプ画面が充実しており利用に必要な情報の多くは本体パネルから見ることができる。
利用支援が充実していること
メモリレコーダーを利用する場合の利用支援が充実していることも製品を選定する場合に必要となる。利用支援とは「電話やメールによる使い方に関する問い合わせの窓口が充実していること、技術資料や応用事例の紹介が充実していること、修理や校正の対応が充実していること」などが挙げられる。
最近では計測器メーカーが基本的な操作法を動画で紹介するなど、利用者への便宜を図っている。
転載元「TechEyesOnline」紹介
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