アルミ電解コンデンサー(1)―― 原理と構造:中堅技術者に贈る電子部品“徹底”活用講座(34)(1/2 ページ)
今回から、湿式のアルミ電解コンデンサーを取り上げます。古くから、広く使用される“アルミ電解コン”ですが、さまざまな誤解、ウワサ話があるようです。そこで、誤解やウワサに触れつつ、アルミ電解コンの原理や構造、種類などを説明していきます。
アルミ電解コンデンサーは古くから幅広く使われてきましたが、アルミ電解コンデンサーに対して正しい認識で使われてきたかと言えば、多くの場合は疑問符が付くのではないでしょうか? いわく、
・パンクする
・電解液が誘電体なので電解液とともに容量が抜ける
・両極性で使う場合は+極同士? −極同士? どちらを接続すべきか?
・4級塩電解液は強アルカリだ!!
・液漏れがよく起きる
などの言葉が今でもインターネット上で数多く見かけられますが、これらの多くはアルミ電解コンデンサーに対して正しい認識を持たない現象論的なウワサ話に他なりません。ここではこれらのウワサ話について考えるとともに湿式のアルミ電解コンデンサーについて説明していきます。
注)本来は用語として“キャパシター”を使うべきなのですが、それなりに浸透していますのでアルミやタンタルなどの電解タイプの部品に限って本稿でも「コンデンサー」を使用します。
コンデンサーの原理
コンデンサーの原理図として図1に示す2枚の電極間に誘電体と呼ばれる、比誘電率εS>>1の材料が挿入された平行平板の図がよく用いられます。
そしてアルミ電解コンデンサーの回路図記号として図2に示す旧記号が用いられる一方、図3の内部構造のイメージが説明に用いられてきました。
結局、これらのイメージから電解液が誘電体、2枚のアルミ箔が+極と−極というイメージが定着し、それらの結果から冒頭に示したウワサが定着していったのだと考えられます。
しかし、アルミ電解コンデンサーは実際には次の表2に示すようにアルミ箔の表面に酸化アルミニウム(Al2O3)を生成させて、この酸化物を誘電体として用いていますのでアルミ電解コンデンサーの誘電体はよく言われる電解液ではありません。
アルミ箔表面に生成された図4(a)の酸化アルミニウムのεSは7〜10であり、絶縁破壊電圧も高く(>500KV/mm)、絶縁性(108〜109Ω/m)や生産性にも優れているので広く用いられていますが、同時に電気的にアルミ箔との間で擬似ダイオードを構成します。
つまりアルミ電解コンデンサーは図4(b)に示すように、このダイオードの逆極性の空乏層容量を利用したものですが、この逆極性を利用するが故にアルミ電解コンデンサーは印加電圧に極性を持ち、逆電圧では利用できないことになります(図5)。
図6は実際の陽極箔の表面ですが表面が酸化処理されているので灰色に見え、厚みは0.1mm前後ですので感触としては家庭用アルミホイルのような柔らかい印象はなく硬さを感じます。
アルミ電解コンデンサーはこのような特性の酸化アルミニウム層を持つアルミ箔を+極(陽極)に用いて図3に示したように電解紙、陰極箔とともに卷回したものです。
アルミ電解コンデンサーの種類
アルミ電解コンデンサーとは陽極箔にアルミ、誘電体に酸化アルミを用いたもの全体を指し、陰極の種類によって湿式と個体の2つのグループになります(表1)。
この中で通称“アルミ電解コン”、あるいは単に“電解コン”と呼ばれるものは(1)の湿式アルミ電解コンデンサーを指し、本稿中でも単に“アルミ電解コンデンサー”と表記します。本稿で説明するのはこの湿式アルミ電解コンデンサーについてです。
このアルミ電解コンデンサーの特長として材料や処理を組み合わすことで図7に示すように広範囲の仕様に対応することができます。実力で電圧は2桁、容量値は6桁ほどをカバーし、他のコンデンサーに比べて対応範囲が広いのが見て取れます。リップル耐量品、長寿命品など、高機能品もこの範囲に含まれます。
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