車載Ethernet実装の製品開発、2つの課題とその解決策:自動運転を支える技術(2/3 ページ)
車載Ethernetが実装された製品開発を行う上で、ハードウェアエンジニアが直面する大きな課題は2つある。1つ目は、試作を繰り返すカット&トライの方法だけでは製品開発がうまくいかないこと、2つ目は、車両での通信不具合が発生した場合のデバッグが困難であることだ。本稿ではこれらの課題へのアプローチ方法を提案する。
モデルベース設計の活用事例 〜差動Sパラ規格試験への活用〜
ECU(電子制御ユニット)の電気特性の要求仕様として、コネクター端での反射のSパラメーターが規定されるケースが増えている。ECUをはじめとした車載部品がネットワークに接続される際に、コネクター端での電気特性が悪いとネットワーク全体に影響を与えるためである。
車載Ethernetでも、IEEE802.3bw-2015および、「Open Alliance TC8」発行の「Automotive Ethernet ECU Test Specification version 2.0」で、ECUコネクター端でのSパラメーターの仕様が規定されている。具体的には、Sdd11(差動リターンロス)とSdc11(モード変換)が規定されている。特に、Sdc11(モード変換)が厳しい仕様となっており、一筋縄では仕様を満足できないので注意が必要である。
Sdc11(モード変換)は、何らかの理由でECUに入ったノイズがコネクター端で反射するときに差動信号に変換される量を表す。車両内はノイズが非常に大きい環境あるため、ノイズから変換された差動信号に起因した通信エラーが発生する可能性が高い。従って、Sdc11<-60dBと大変厳しい仕様が規定されている。この基準は、1Vのノイズがコネクター端で反射して生成される差動信号の電圧を1mV以下に抑える必要があることを意味する。
例えば、モバイル系デバイスの画像伝送インタフェースの一つである「MIPI D-PHY」ではSdc11<-26dBと規定されていることを考えると、車載Ethernetでの要求仕様Sdc11<-60dBが民生と比較して大変厳しい仕様となっていることが分かる。
設計要件の厳しい「車載コネクター変換治具」
Sパラメーター測定はベクトルネットワークアナライザーによって行う。従って、測定時にはECUとベクトルネットワークアナライザーを接続するための車載コネクター変換治具が必要となる。車載コネクター変換治具とは、車載コネクターからSMAコネクターへの変換治具のことを指す。Open Alliance TC8では、測定治具に対する基準Sdc11<-70dBが規定されている。この基準を満足する治具を製作するためには、高周波設計と測定技術に対する深い知見が要求される。治具の製作前に回路シミュレーターにより治具のレイアウト検証を行い、その妥当性を確認するのが望ましい。
一般的に、Sdc11の主要な発生要因としては差動伝送路のイントラペアスキューが挙げられる。Sdc11<-70dBを満足するためのイントラペアスキューの要件を、回路シミュレーターにより検討した結果を図5に示す。わずか1mmのイントラペアスキューがあるだけで、治具の基準Sdc11<-70dBを満足できないことが分かる。治具設計要件の厳しさとともに試作前のレイアウト検証の重要性が分かる。
レイアウト検証を行い試作した治具の実測データも、合わせて図5に示す。Open Alliance TC8が規定した測定治具に対する厳しい基準を、余裕をもって満足していることが分かる。
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