車載Ethernet実装の製品開発、2つの課題とその解決策:自動運転を支える技術(3/3 ページ)
車載Ethernetが実装された製品開発を行う上で、ハードウェアエンジニアが直面する大きな課題は2つある。1つ目は、試作を繰り返すカット&トライの方法だけでは製品開発がうまくいかないこと、2つ目は、車両での通信不具合が発生した場合のデバッグが困難であることだ。本稿ではこれらの課題へのアプローチ方法を提案する。
本当に知りたいのは車両内での通信品質
ECUをはじめとした車載部品は、最終的には車載ネットワークに接続される。従って、車両に実装された状態、すなわち車載ネットワークに接続された状態で不具合を起こさず安定的に動作することが求められる。
車載Ethernetでは、1本のツイストペアケーブルで双方向に信号伝送が行われる(図2)。1本のツイストペアケーブルに片方向の信号のみ伝送させる方式と比べるとケーブルの重量を半分にできるため、車両重量の低減に貢献できるメリットがある。その反面、車両で通信不具合が発生した場合の問題切り分けが困難となるデメリットがある。
2つのECU間を通信する信号をオシロスコープで測定すると、双方向に伝送される信号が重畳した波形として測定されるため、各方向に伝送される信号の波形品質を見ることができない。従って、通信不具合が発生した時に最初に行うべき物理層と、上位層との問題切り分けができない。この問題を解決するために開発された信号分離治具を使うと、各方向の信号を分離して波形品質を測定できる(図6)。各方向の信号の波形品質が分かると、通信不具合の原因が物理層または上位層のどちらにあるのか見当をつけられる。その結果、不具合解析の方針を立てやすくなり、デバッグ効率を飛躍的に向上させられる。
まとめ
自動運転を支える車載Ethernet(100Base-T1)について概観し、ハードウェアエンジニアが直面する2つの大きな課題を解決する方法として、モデルベース設計によるシミュレーションと実測との連携および、信号分離治具を活用した波形品質評価、を提案した。
100Base-T1はさまざまなクルマへの実装が見込まれる一方で、早くも帯域不足が懸念されている。車載Ethernetの高速化に対する標準化はすでに進行しており、今後は伝送レート1Gbpsの「1000Base-T1」や最大10Gbpsの「Multi Gigabit Ethernet(マルチギガビットイーサネット)」の実装も始まると予想される。本稿で提案したモデルベース設計手法や信号分離手法が車載Ethernetを実装した製品開発の役に立てれば幸いである。
【著:小室行央(キーサイト・テクノロジー株式会社ソリューションエンジニアリング本部エンジニアリング三部)】
著者からのお知らせ
本記事で紹介した車載イーサーネットのコンプライアンス試験および、実波形観測に関連したソリューションを、2019年9月18〜20日に名古屋市・ポートメッセなごやで開催される「カーエレクトロニクス技術展」のキーサイトブース(小間番号:7-30)にて展示する予定です。
展示の詳細については、こちらをご覧ください。
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