SiC登場で不可避な電源回路シミュレーション、成功のカギは「正確な実測」:ダブルパルステスターで高精度なデバイスモデルを(4/5 ページ)
SiC(炭化ケイ素)やGaN(窒化ガリウム)を使ったパワーデバイスの実用化に伴い、電源設計においても回路シミュレーションを実施する必要性が高まっている。しかし、「実測値とシミュレーション結果が合わない」というケースが頻発している。なぜ、シミュレーションがうまく行かないのか。その理由と解決策を紹介してきたい。
実際の動作条件での評価が可能に
パワーデバイスのオン特性とオフ特性を任意の動作条件で測定できるメリットは大きい。一般にパワーデバイスのデータシートには、オン特性とオフ特性が記載されているが、それはある条件における特性値にすぎない。つまり、実際のアプリケーション動作条件での特性値は分からない。ダブルパルステスターを使えば、必要な動作条件で随時テストでき、必要な特性値を入手できる。
こうして得られた測定結果は、SiC/GaNパワーデバイスのデバイスモデル作成に使えるほか、電源回路設計などでも活用できる。例えば、SiCパワーMOSFETのオン特性とオフ特性を測定して、その傾きやリンギングの大きさを把握できれば、その結果に応じてゲート抵抗の最適化を図ることが可能になる。
さらに、電源回路のスイッチング損失を求められるようになる。スイッチング損失は、スイッチング動作時に電圧と電流の重なり合った部分を積分した値に等しい。ダブルパルステスターを使えば、オン時とオフ時のスイッチング波形を測定できるので、スイッチング損失をすぐに算出できる。このため、「どの半導体メーカーのSiCパワーMOSFETが、実際の動作条件においてスイッチング損失が最も少ないのか」などを評価できるようになる。
ダブルパルステスターの内部構成を図9に示す。同期整流方式を採用したDC-DCコンバーターに近い回路構成である。測定対象となるパワーデバイス(DUT)は、ローサイド側に取り付ける。
まずは、コンデンサーを充電する。その後、ローサイドのパワーデバイスに1発目のパルス信号を供給して、オンさせる。するとコンデンサーに蓄えられた電荷がインダクターを介してパワーデバイスに流れ込む。ただし、ローサイドのパワーデバイスに流れる電流は、電流経路にインダクターがあるため一気に増えない。徐々に増加して、あらかじめ設定した電流値に達する。
1発目のパルス信号の供給が終わると、ローサイドのパワーデバイスはオフする。するとコンデンサーから流入していた電流の行き場がなくなり、ハイサイド側のダイオードを介して還流するようになる。その後、2発目のパルス信号を印加するとローサイドのパワーデバイスはオンし、還流していた電流が再びローサイドのパワーデバイスに流れ込む。
既存のダブルパルステスターには課題
ダブルパルステスター自体は、以前から広く知られていた技術である。すでに、その技術を適用した測定装置が実用化されている。
それには2つのタイプがあった。1つは、パワーデバイスの量産ラインに向けた製品だ。「動特性テスター」という名称で販売されていて、最終出荷テストなどで使われている。このタイプは、量産ラインへの組み込みに必要なハンドラー(搬送装置)が付属されるほど外形寸法が大きく、高価である。さらに、スループットを重視しているので、測定精度はあまり高くない。このため、研究開発用途には不向きだった。
もう1つのタイプは、ユーザーが自らの手で作成したり、システムインテグレーターに依頼して作ってもらったりした測定装置である。こうした「バラックなテスター」は、測定の再現性が低く、測定結果の一貫性が乏しい。例えば、半導体メーカーで測った結果と、ユーザーで測った結果が一致しないといった事態を招くことが少なくない。
さらに測定条件の設定をすべて手動で行わなければならない。供給する電流に合わせてパルス幅を計算し、パルスジェネレーターにセットするなどの作業が必要である。しかも高電圧、大電流を印加するため、操作をミスすればユーザーに危害が及ぶ恐れがある。そのため、テスターに精通した専任者しか使うことができず、多くのユーザーが手軽に使うことができない。電源回路設計者が手軽に使いこなせる代物ではなかった。
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