SiC登場で不可避な電源回路シミュレーション、成功のカギは「正確な実測」:ダブルパルステスターで高精度なデバイスモデルを(5/5 ページ)
SiC(炭化ケイ素)やGaN(窒化ガリウム)を使ったパワーデバイスの実用化に伴い、電源設計においても回路シミュレーションを実施する必要性が高まっている。しかし、「実測値とシミュレーション結果が合わない」というケースが頻発している。なぜ、シミュレーションがうまく行かないのか。その理由と解決策を紹介してきたい。
高い安全性と測定一貫性を確保
こうした既存装置の問題は、徐々に解決されつつある。キーサイト・テクノロジーなどの計測機器メーカーがダブルパルステスターを製品化しているためである。こうした計測機器メーカー製のダブルパルステスターの特長は、高い安全性を確保しているのと同時に、高い測定一貫性(再現性)を実現している点にある(図10)。測定条件は、専用のソフトウエアを搭載したPC画面上で設定すれば、テスターが自動的に測定し、測定結果は自動的にPC画面に表示される。
こうしたダブルテスターはさまざまなユースケースが想定される。1つは、SiC/GaNパワーデバイスの高精度なデバイスモデルを作成して、実測値との整合性が高いシミュレーションを実行するようなケース。ダブルパルステスターで測定したデータから抽出したデバイスモデルパラメーターを使えば、実測結果とシミュレーション結果を高い精度で一致させられるだろう(図11)。
図11:実測値とシミュレーション結果が合うようになる
パワーデバイスのパラメーターを正確に測定し、それをデバイスモデルに入力すれば、高精度なシミュレーションを実行できるようになる。実際に、実測値とシミュレーション結果は、ほぼピッタリと一致するようになる。
もう1つは、SiC/GaNパワーデバイスの評価用途である。SiC/GaNパワーデバイスの開発、製造を手がける半導体メーカーでの特性評価や、SiC/GaNパワーデバイスを調達して電源回路に組み込む電子機器メーカーでの受け入れテストでも活用できるはずだ。
GaN対応品は2020年後半
今日、市販されているダブルパルステスターは、最大1200V/200AまでのSiCパワーMOSFETなどの評価に対応している。今後は、対応する電圧/電流の最大値を高まるとともに、GaNパワーデバイスにも対応する見通しだ(図12)。
2020年夏ごろには、SiCパワーMOSFETを搭載したインテリジェント・パワー・モジュール(IPM)などの評価に使える対応電圧/電流を最大1200V/1000Aに高めた機種が製品化される予定である。
GaNパワーデバイスに対応した機種については、2020年後半にも登場するだろう。GaNパワーデバイスに対応したダブルパルステスターが実用化されれば、SiCパワーMOSFETと同様に、高精度なシミュレーションが可能になる。そうなれば、GaNパワーデバイスを採用した電源回路設計の難易度が大幅に軽減される。GaNパワーデバイスの普及に一役買うはずだ。
【著】
・武田亮(キーサイト・テクノロジー・インターナショナル・ジャパン合同会社オートモーティブ・エナジー・ソリューションプランニング&R&D)
・橋本憲良(キーサイト・テクノロジー株式会社ソリューションエンジニアリング本部デザインソフトウェアエンジニアリング部)
著者からのお知らせ
本記事で紹介したダブルパルステスターを、2019年9月18〜20日に名古屋市・ポートメッセなごやで開催される「カーエレクトロニクス技術展」のキーサイトブース(小間番号:7-30)にて展示する予定です。
展示の詳細については、こちらをご覧ください。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 車載Ethernet実装の製品開発、2つの課題とその解決策
車載Ethernetが実装された製品開発を行う上で、ハードウェアエンジニアが直面する大きな課題は2つある。1つ目は、試作を繰り返すカット&トライの方法だけでは製品開発がうまくいかないこと、2つ目は、車両での通信不具合が発生した場合のデバッグが困難であることだ。本稿ではこれらの課題へのアプローチ方法を提案する。 - ダイナミックパワーデバイスアナライザーを発表
キーサイト・テクノロジーは、ダブルパルステスト機能を搭載したダイナミックパワーデバイスアナライザー「PD1500A」を発表した。ワイドバンドギャップ(WBG)半導体について、再現性と信頼性、安全性の高い測定ができる。 - 高速GaNトランジスタ、最適な測定方法とは
GaNトランジスタの出現がもたらしたスイッチング速度の高速化に伴って、優れた測定技術、それとともに高速波形の重要特性を細部まで把握する技術が不可欠になっている。本稿では、測定機器をどのように活用すれば、ユーザーの要求条件および測定技術に適合し、高性能GaNトランジスタを正確に評価することができるかを考察する。 - 4つの測定チャンネル搭載のパワーメーター
ローデ・シュワルツ・ジャパンは、終端型と指向性パワーセンサーをワンボックスでサポートする「R&S NRX RF」パワーメーターを発表した。最大4つの測定チャンネルと5インチの統合タッチスクリーンを搭載している。 - 大電流化、高速化対応のAC-DCカレントセンサー
日置電機は、大電流化、高速化に対応するAC-DCカレントセンサー「CT6875」「CT6876」を発売した。高精度、広帯域など、電流センサーに求められる要求仕様に対応できるよう、従来製品から大幅に性能が向上している。 - IGBTの熱計算により 電力設計の有効性を最大化
1つのダイで構成される半導体デバイスのジャンクション(接合部)温度の計算方法はよく知られています。ダイの電力損失を測定し、ダイとパッケージ間の熱抵抗を掛けて、ケースから接合部への温度上昇を計算すれば求められます。しかし、IGBTとダイオードを1パッケージに封止したパワーモジュールの場合はどうすれば良いでしょう。ここでは、IGBTとダイオードの熱抵抗を用いて平均およびピーク時のジャンクション温度を計算する方法を解説します。