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ドライバ統合で電力密度が倍増、次世代GaN FETが電源設計に新たな価値をもたらすEV用充電回路のサイズは半分に

10年間、GaNパワーデバイスの研究開発に投資し、性能と信頼性を向上してきたTexas Instruments(TI)。同社が開発した新しい650Vおよび600VのGaN FETは、Siliconドライバや保護回路を統合することで、電力密度をさらに高めた製品となっている。

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TI 高電圧パワー部門 GaN製品 マネージャのSteve Tom氏

 電力需要が増加の一途をたどる中、あらゆるアプリケーションにおいて電力管理の重要性がますます高まっている。自動車の電動化、工場のスマート化、パーソナルエレクトロニクスの低消費電力化など、多くの分野で電力効率や省エネが重視されている。それに伴い、電源設計では電力密度をいかに高めるかが常に課題の一つとなっている。

 その答えとして注目されているのが、GaNパワーデバイスだ。

 Texas Instruments(TI)の高電圧パワー部門 GaN製品でマネージャを務めるSteve Tom氏は、「電力システムの根幹を成すパワーエレクトロニクスにおいては従来、コスト、信頼性、サイズ、システム性能、電力効率、電力密度などの点でトレードオフが発生し、いずれかの要素を諦めなくてはならなかった。今回、TIが発表する新しいGaNパワーデバイスは、パワーエレクトロニクスに不可欠な要素全てを得ることができるようになる」と述べる。

10年間、GaNに投資し続けてきたTI

 TIは2010年ごろからGaNパワーデバイスの開発に投資してきた。Tom氏は「われわれは、当時からパワーエレクトロニクスの重要性を認識しており、GaNパワーデバイスについても、電力システムの性能を向上していく上で重要な役割を果たすであろうことは理解していた」と語る。その上でTIは当初から、GaNパワーデバイスの品質、コスト、キャパシティにフォーカスし、車載市場と産業市場を注力用途として開発を進めてきた。自社の工場で、GaN-on-SiウエハーをベースにGaNパワーデバイスを製造することで、こうした品質、コスト、キャパシティを全てコントロールできることもTIの強みだ。

 2018年には、ドイツSiemensとともに、600V定格のGaN FETパワーステージを搭載した10kWグリッド・リンクのデモアプリケーションを開発。この時使用したのは、ドライバと保護機能を集積した「LMG3410R050」で、従来のSiベースのシステムと比較すると、電源部品で30%の縮小を達成した。

 2020年には、900V、5kWの双方向AC/DCプラットフォームのデモを実施。5kWレベルまでのアプリケーションに対応し、冷却ファンなしで最大99.2%の効率を実現している他、Si-IGBTを使う場合に比べて、3倍の電力密度を実現することが可能だ。


TIは約10年前からGaN FETの開発に投資してきた

ドライバと保護機能を統合した新GaN FET

 このように着実にGaNの開発を進めてきたTIは、「次世代の統合GaN FET」と位置付ける650Vおよび600VのGaN FET製品ファミリを開発した。SiドライバとGaN FETを、より熱的に強化されたパッケージ内に統合することで2倍の電力密度を実現する他、保護回路や温度センサーなども集積していることから、基板面積を縮小しつつ、高性能の電力管理システムを設計できる。

 Siドライバは150V/nsのスルーレートと2.2MHzと高速のスイッチング周波数を備えているため、磁気部品を50%削減でき、ディスクリート構成と比較して10個以上の部品を削減できる。

 Tom氏は「Siドライバを統合することは、TIのGaN製品における最大の差異化要因だ。統合によってGaN FETの性能が上がるからだ」と強調する。従来、Si-MOSFETとは製造プロセスが異なるGaN FETはディスクリートデバイスとしてパッケージングされ、別のSiドライバによって駆動されてきた。だが、この場合、GaN FETとSiドライバの各パッケージのボンドワイヤやリードにおける寄生インダクタンスによって、スイッチング損失や信頼性低下につながってしまう。GaN FETとSiドライバを同一パッケージ内に統合することで、寄生インダクタンスを大幅に取り除くことができ、デバイスとしての性能と信頼性が向上できる。こうした統合の実現は、GaN-on-Siデバイスと最適化したSiドライバというTI独自のアセンブリ・プロセス技術によるところが大きい。

 さらに、新世代のGaN FET製品ではTI独自の理想ダイオード・モードにより電力損失を低減できる。一例を挙げるとPFC(力率改善)回路では、ディスクリートのGaNまたはSiC FETに比べ、理想ダイオード・モードによって第3象限の損失を最大66%低減することが可能だ。スイッチングの高速化と電力損失はトレードオフの関係にあるが、TIの新しいGaN FETは、このトレードオフを最小限に抑えられるのである。

 この他、パッケージも刷新し、競合のパッケージに比べ23%低い熱インピーダンスを実現した。このため、より小型のヒートシンクを使用できるようになり、放熱設計が容易になる。さらに、パッケージの上面からの放熱か、下面からの放熱かを選択可能なので、アプリケーションに応じた柔軟な放熱設計が行える。TIはまた、5GWhの電力で4000万時間におよぶデバイス信頼性テストと処理を実施することにより、信頼性も確保した。


次世代の統合GaN FET製品の特長

統合GaN FETでEV用充電回路のサイズが半分に

 「次世代の統合GaN FET」の製品として2020年11月に発表したのが、車載アプリケーション向けの650V GaN FET「LMG3525R030-Q1」だ。「車載向けの650V GaN FETで、Siドライバや保護機能をシングルパッケージに統合した製品は業界初となる」とTom氏は語る。

 2.2MHzの高速スイッチング特性を持つSiドライバを統合したことで、磁性部品のサイズを59%削減。電気自動車(EV)の充電回路やDC/DCコンバータのサイズを、既存のソリューションと比較して最大50%縮小できる。これにより、充電システムの設計コストの削減が可能になる。

 電力変換効率も99%と高いため、7.4kWや11kW、22kWといった高い定格電力のOBC(オンボードバッテリーチャージャー)を、より小さな実装面積で実現できる。つまり、既存のOBCと同じサイズでも定格電力を上げられるので、EVをより短い時間で充電または、同じ充電時間でバッテリー容量を増やすことができる。

 2個のLMG3525R030-Q1で構成したハーフブリッジ回路を搭載した評価モジュール「LMG3525EVM-042」も提供する。同ハーフブリッジ回路の他、必要なバイアス電源、ロジック向け信号絶縁回路を搭載。ソケット型の外部接続を搭載しているので、外部の電力ステージと簡単に接続でき、さまざまなアプリケーションで動作を評価できる。


「LMG3525R030-Q1」を搭載した評価モジュール「LMG3525EVM-042」

 車載向けの650V GaN FETに加え、産業用途向けとなる600V GaN FET「LMG3425R030」も発表した。既存品に比べて出力電力が倍増していて、1Uサイズのラックサーバにおいて、Si-MOSFETを使用する場合と比較すると電力密度を2倍に向上できる。ハイパースケールや企業向けのコンピューティングプラットフォームや、5G(第5世代移動通信)通信向けの電源といったAC/DC電力供給アプリケーションにおいて99%の電力変換効率を提供する。同製品について、2個のLMG3425R030で構成したハーフブリッジ回路を搭載した評価モジュール「LMG3425EVM-043」を提供している。

 産業用のLMG3425R030については、量産前バージョンを12mm角のQFNパッケージで提供中で、1000個購入時の単価は8.34〜14.68米ドル。量産出荷は2021年第1四半期を予定している。評価モジュールの価格は199米ドルから。車載用であるLMG3525R030-Q1の量産前バージョンと評価モジュールは、2021年第1四半期に提供を開始する予定だ。

 Tom氏は「GaNパワーデバイスは今後大きく伸びていく市場だと見ている。顧客からは、GaNパワーデバイスが最も高性能でコストも最小限に抑えられる上に、信頼性が高いという声もいただいている」と語る。

 独自の統合技術を駆使して、Siドライバや保護機能を同一パッケージ内に集積したTIの次世代GaN FET。クルマの電動化に伴い、車載システムの小型化、軽量化の課題を常に抱えている自動車分野をはじめ、高電力密度が重視される電源アプリケーションが必要な分野に、新しいGaN FETは大いに貢献するだろう。Tom氏は、「TIの役割は、顧客が差別化した製品を開発できるように、先端技術を提供し続けることだ」と強調した。

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提供:日本テキサス・インスツルメンツ合同会社
アイティメディア営業企画/制作:EDN Japan 編集部/掲載内容有効期限:2021年1月10日

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