マイコン製品における出荷テストとは:ハイレベルマイコン講座【出荷テスト編】(1)(2/4 ページ)
マイコンの出荷テストについて2回に分けて詳しく解説する。1回目の本記事では、はじめに「マイコンの故障の定義」「故障モード」、次に製造工程のどのステップでテストが行われているかを説明するために「製造工程(製造フロー)」について説明する。そして最後に「基本的なテストの種類」について概要を説明する。
故障モデル
マイコンの故障モデルは、大きく次の3つに分けられる。
- 論理動作故障
- DC特性/AC特性の故障
- アナログ特性の故障
1.論理動作故障
論理動作上の故障は、縮退故障と呼ばれる故障を仮定する。縮退故障とは、論理回路の一部がハイレベルやローレベルに固定されて、正常な論理動作ができなくなる現象だ。
図1に全加算器の縮退故障の例を挙げる。全加算器についてはマイコン入門!! 必携用語集(6):CPUの中枢「ALU」を作ってみようを参照してほしい。
図1(a)に全加算器の論理図を示す。図1(b)に入力信号のパターン、図1(c)に正常な出力信号のパターンを示す。これが出荷テストの際の入力パターンと出力パターンの期待値になる。図1(d)には、INV12の出力信号が「1」に固定される縮退故障の場合の出力信号のパターンを示す。(I0,I1,Ci)=(0,0,0)、(I0,I1,Ci)=(0,0,1)、(I0,I1,Ci)=(0,1,0)、(I0,I1,Ci)=(1,0,0)を入力した際の出力信号Cが「1」になり、期待値の「0」と異なる。これにより、この全加算器のINV12の出力信号の論理的故障を検出することができる。
縮退故障の前提条件は、単一故障という概念に基づく。これは、マイコン内部の論理回路の中で1カ所だけが故障しているという前提でテストが行われるものだ。単一故障に対し、複数の信号が故障している場合は多重故障と呼ばれる。
<補足>
インバーターの入力信号と出力信号は、反転の関係にあるため、入力信号が「1」または「0」に縮退した場合は、出力信号が「0」または「1」に縮退した場合と同じ論理動作になる。そのため、通常はインバーターの入力信号と出力信号どちらの縮退故障かを判別することができない。しかし、この例では、INV12の入力がNAN12の入力信号でもあるため、入力信号が「0」に縮退した場合は、NAN12の出力が「1」固定され、出力信号Sの値も変わるはずである。そのため、INV12の出力信号の縮退故障であると判別できる。一方、INV11の場合は、入力信号がINV11にしか入っていないので、このような判別はできない。
2.DC特性、AC特性の故障
DC特性とは、消費電流、リーク電流、汎用I/Oの入力特性、出力特性などを言う。AC特性とは、通信機能の信号の立ち上がり/立ち下がり時間や、セットアップ/ホールド時間、発振回路関連(動作周波数など)の特性を言う。
DC特性の故障の極端な例は、電源ラインとグランドラインの短絡だ。この場合、過大な消費電流が流れる。完全に短絡せず、ある程度抵抗を保持する短絡でも、消費電流は増加する。そのため消費電流をテストすることで、マイコン内部の信号ラインや電源とグランドの短絡故障を検出することができる。
電源だけなく、端子が隣接する端子や電源やグランドと短絡している場合も、汎用I/Oの異常特性になって現れる。
AC特性の故障検出例としては、発振回路の外部入力クロック特性チェックが挙げられる。過去の事例を、STマイクロエレクトロニクス(以下ST)の汎用8ビットマイコン「STM8AF6246」*2)を例に紹介する。これはあくまでSTM8AF6246を例に事例を説明するというだけで、STM8AF6246で実際に起きた事例ではない点に注意いただきたい。
図2に、STM8AF6246のデータシート*3)から抜粋した外部入力クロック特性を示す。この表から、最大16MHz動作が保証されていることが分かる。もし、内部の電源ラインのメタル配線が途中で細くなっている、もしくは断線しかかっていることで末端まで正常に電源が供給されず、電圧降下が発生していると、マイコンは16MHzで動作できず、出荷テストで不合格となる。電源ラインの故障はこのようにして検出することができる。
同様に、通信機能の入出力ラインに故障がある場合は、出力信号の立ち上がり/立ち下がり時間や、入力信号のセットアップ/ホールド時間の異常になって現れる。
*2)https://www.stmcu.jp/stm8/stm8af62/
*3)https://www.stmcu.jp/design/document/datasheet/51239/
3.アナログ特性の故障
A-DコンバーターやD-Aコンバーターなどのアナログ機能の性能が得られない場合もマイコンの故障と判別される。アナログ回路では、MOSトランジスタを線形領域(非飽和領域)で使用しているため、イオンのドーズ量が規格から外れると、MOSトランジスタの特性が変わってしまい、アナログ特性に影響する。図3にSTM8AF6246のデータシートから抜粋したA-Dコンバーターのアナログ特性を示す。この表で、A-Dコンバーターの変換誤差が保証されているが、イオンのドーズ量が異常だったり、配線幅が狭くなったりしていると、アナログ特性に影響が出て変換誤差が保証値から外れてしまう。
基本的に、イオンのドーズ量はウエハー上に設けられたTEG(Test Element Group)のMOS特性をチェックすると良否判定できる。だが、異物や不純物が混入すると極所的に異常値になり、特定のアナログモジュールの故障となって現れる。
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