ドイツの新絶縁規格、アイソレーター設計の注意点とは:旧規格からの移行期間が終了
2020年1月の時点で、DIN(ドイツ規格協会) V VDE V 0884-10:2006-12は、磁気および容量性のガルバニック絶縁製品における固有の絶縁特性と高電圧性能の評価に使われる認証規格として有効ではなくなった。これにより、2017年にDIN VDE V 0884-11:2017-01更新規格が発表された際にICメーカーに与えられた、3年間の移行期間が終了したことになる。
2020年1月の時点で、DIN(ドイツ規格協会) V VDE(Verband der Elektrotechnik, Elektronik und Informationstechnik) V 0884-10:2006-12は、磁気および容量性のガルバニック絶縁製品における固有の絶縁特性と高電圧性能の評価に使われる認証規格として有効ではなくなった。これにより、2017年にDIN VDE V 0884-11:2017-01更新規格が発表された際にICメーカーに与えられた、3年間の移行期間が終了したことになる。
この変更により、ICメーカーは新しい認証要件を満たすようにアップグレードを行うか、または対応するICのデータシートからVDE認証を削除する必要がある。
この認証は、基本および強化型のデジタル・アイソレータ向けに作成された唯一のコンポーネント・レベル規格である。そのため、認証があることで、機器メーカーは、特定の絶縁製品が自社システムの高電圧要件を満たし、最終製品レベルの認証に適合するという確信を持つことができる。
新しい規格の変更点
DIN V VDE V 0884-10からDIN VDE V 0884-11への最も大きな変更点は、認証プロセスと要件に関するものだ。表1に示すように、この変更点には、基本絶縁と強化絶縁の両方の認証に対するコンポーネント規格が含まれる。
更新内容について詳しく見ていこう。
「最大サージ絶縁電圧」は、特定の過渡プロファイルを持つ非常に高電圧のインパルスに対して、アイソレータがどの程度耐えられるかを示す。図1に示すサージ試験プロファイルは、直接または間接的な落雷や、障害または短絡事象によって生じる可能性のあるものだ。試験電圧、最小電圧要件および印加回数は変更されていないが、サージの印加はユニポーラではなくバイポーラのパルスで行われる。25回の正パルスを印加した後、1時間以上、2時間未満の遅延時間をおいてから、同じ装置に25回の負パルスを印加する。
1回のサージ・パルス中に、一部の電荷が絶縁誘電体に残り、残存電界を形成する。ユニポーラ試験では、この残存電界によって、後続のパルス中に絶縁障壁から見た合計電界が減少。バイポーラ・パルスの場合、残存電界が前のパルスに対して加算的に作用するため、絶縁障壁へのストレスがより大きくなり、その装置の試験シーケンス内の先行パルスと比較して電界の大きさが常に上回る。
DIN VDE V 0884-11では、業界標準の経時絶縁破壊(TDDB)試験法を使用して、絶縁寿命の予測データを収集することが必要になった。この試験では、障壁の各側で全てのピンを互いに接続して2端子デバイスを形成し、障壁をまたいで高電圧を印加する。絶縁破壊データは、室温と最大動作温度の両方において、60Hzでスイッチングするさまざまな高電圧で収集される。
図2は、絶縁障壁がその寿命全体にわたって高電圧ストレスに耐える固有の能力を示している。TDDBデータに基づき、絶縁の固有の能力は135年の寿命にわたって1.5kVRMSである。パッケージ・サイズ、汚染度、材料グループなど、他の要素によって、部品の動作電圧はさらに制限される場合がある。このデータは、ICメーカーが認証対象の各デバイスについて収集するのに数カ月あるいは数年かかる。
強化絶縁について、DIN VDE V 0884-11では、1ppm(part per million)未満の故障率でのTDDB予測直線の使用が求められる。期待される最小絶縁寿命は、指定の動作絶縁電圧において20年だが、新しい強化絶縁認証では、動作電圧について20%、デバイスの定格寿命について87.5%の安全マージンが追加で求められる。これは、指定電圧よりも20%高い動作電圧で37.5年の最小絶縁寿命要件に相当する。
基本絶縁については、DIN VDE V 0884-11の要件はこれよりも軽く、許容される故障率は1000ppm未満である。20%の動作電圧マージンが求められるのは同じだが、基本絶縁デバイスでは寿命マージンが30%に軽減され、これは指定電圧よりも20%高い動作電圧で26年の寿命要件に相当する。DIN V VDE V 0884-10では、最小定格寿命と寿命全体での故障率が定義されていなかった。
部分放電試験の基準はDIN VDE V 0884-11でも変わっていないが、部分放電試験の絶縁部品への関連性は理解しておきたい。
二酸化ケイ素には部分放電がないが、Texas Instruments(TI)とVDEはどちらも、二酸化ケイ素をベースとしたデジタル・アイソレータでも部分放電試験を行う。フォトカプラでは、誘電体に不要な空隙が入った不良製品を選別して除外するために、部分放電試験を利用する。なお、不良品の除外は不可欠だが、この試験をもって最小製品寿命を保証することはできないことには注意されたい。デジタル・アイソレータに対して行われるTDDB試験が、正確な製品寿命試験プロセスである(この試験はフォトカプラでは行われない)。
認証があることで、最終製品メーカーは、世界中で使われる自社製品に自信をもって絶縁デバイスを利用でき、絶縁デバイスがアプリケーション設計の要件を満たし、製品寿命を通して確実に絶縁が機能するかどうかを把握することが可能になる。DIN VDEで行われたように、認証要件の更新や改訂が行われることで、高電圧での安全要件の妥当性と、十分な厳格性が維持されていることが確かになる。ただし、部品メーカーがDIN VDE V 0884-11に準拠しているだけでは保証にならないため、今後だけでなく現在の設計でも基板の部品を見直して、これまでと同様に認証要件を満たすかどうかを確認することが重要だ。
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