スペクトラムアナライザーの概要と種類:スペクトラムアナライザーの基礎知識(1)(4/5 ページ)
今回は、無線通信機などの高周波を取り扱う機器の開発、生産、保守の現場では必須の測定器、スペクトラムアナライザーについて解説を行う。
スペクトラムアナライザーの形状
スペクトラムアナライザーは研究開発、設計、生産、保守点検、装置組み込みなど目的にあったさまざまな形状がある。
ベンチトップ型
研究開発、設計、生産の現場で卓上やラックに組み込んで使用するタイプである。研究開発や設計に使われるスペクトラムアナライザーは一般に高機能、高性能である。生産に使われるスペクトラムアナライザーはコストパフォーマンスが重視されたものである。
ベンチトップ型のスペクトラムアナライザーは操作パネルがあり、画面に測定結果が表示される。最近のスペクトラムアナライザーは高機能であるため、さまざまな情報が大きな画面に表示される。
ベンチトップ型の製品は性能や搭載する機能によって種類が豊富にあるため、用途に応じた製品を選ぶ必要がある。
まず、性能による比較を行い信号観測に要求される性能を保有している製品を選ぶ。下表はアンリツのベンチトップ型の製品を性能によって比較した表である。
MS2850A-047/046 | MS2840A-040/041 | MS2840A-044/046 | MS2830A-040/041/ 043 |
MS2830A-044/045 | MS2690A/ 91A/92A |
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周波数範囲 | 9kHz〜32GHz/44.5GHz | 9kHz〜3.6GHz/6GHz | 9kHz〜26.5GHz/ 44.5GHz |
9kHz〜3.6GHz/6GHz/ 13.5GHz |
9kHz〜26.5GHz/43GHz | 50Hz〜6GHz/13.5GHz/ 26.5GHz |
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位相雑音(1GHz、10kHzオフセット) | 123dBc/Hz | 133dBc/Hz*1(500MHz、10kHzオフセット) | 123dBc/Hz | 118dBc/Hz*1(500MHz、10kHzオフセット) | 115dBc/Hz(500MHz、100kHzオフセット) | 116dBc/Hz(2GHz、100kHzオフセット) | |
TOI(1GHz、プリアンプ無) (TOI:2信号3次ひずみ) |
+16dBm | +16dBm | +16dBm | +15dBm | +15dBm | +22dBm | |
表示平均ノイズ | 1GHz、プリアンプ無 | 150dBm/Hz | 151dBm/Hz | 150dBm/Hz | 151dBm/Hz | 150dBm/Hz | 155dBm/Hz |
1GHz、プリアンプ有 | 164dBm/Hz | 165dBm/Hz | 164dBm/Hz | 162dBm/Hz | 161dBm/Hz | 166dBm/Hz | |
5GHz、プリアンプ無 | 144dBm/Hz | 146dBm/Hz | 144dBm/Hz | 146dBm/Hz | 144dBm/Hz | 152dBm/Hz | |
標準アッテネータのレンジ/ステップ | 60dB/2dBステップ | 60dB/2dBステップ | 60dB/10dBステップ | 60dB/2dBステップ | 60dB/2dBステップ(044)10dBステップ(045) | 60dB/2dBステップ | |
全振幅確度 | ±0.5dB | ±0.5dB | ±0.5dB | ±0.5dB | ±0.5dB | ±0.5dB | |
分解能帯域幅 | SPA | 1Hz10MHz | 1Hz31.25MHz | 1Hz31.25MHz(044)10MHz(046) | 1Hz31.25MHz*1 | 1Hz31.25MHz*1(044)10MHz(045) | 30Hz31.25MHz |
VSA | VSA:1Hz10MHz*1 | 1Hz10MHz | 1Hz10MHz | 1Hz10MHz*1 | 1Hz10MHz*1 | 1Hz10MHz*1 | |
解析帯域幅(標準) | 255MHz | 31.25MHz | 31.25MHz | ― | ― | 31.25MHz | |
最大解析帯域幅(オプション) | 1GHz | 125MHz | 125MHz | 125MHz | 125MHz | 125MHz | |
最大デジタイズ時間(10MHzスパン) | 5秒 | 5秒 | 5秒 | 5秒 | 5秒 | 5秒(標準)4時間(オプション) | |
*1:オプション使用時 |
スペクトラムアナライザーの利用目的が明確であれば、測定器メーカーが用途ごとに推奨する製品から選ぶ方法もある。下表はアンリツが用途ごとに別けて推奨している製品を示したものである。
市場 | 対象DUT | 開発/製造 | MS2850A シリーズ |
MS2840A シリーズ |
MS2830A シリーズ |
MS2690A/ 91A/92A |
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セルラー基地局 - 3GPP LTE、W-CDMA/ HSPA、GSM/EDGE… |
RFデバイス/ モジュール |
開発、製造 | ◎ | ◎ | ||
基地局 | 開発 | ◎ | ◎ | |||
製造 | ◎ | ◎*2 | ◎ | ○ | ||
セルラーハンドセット - 3GPP LTE、W-CDMA/ HSPA、GSM/EDGE… |
RFデバイス/ モジュール |
開発、製造 | ○ | ◎*2 | ◎ | ○ |
携帯端末 | 開発 | ○ | ◎*2 | ◎ | ○ | |
製造 | ○ | ◎*2 | ◎ | |||
無線LAN | RFデバイス/ モジュール |
製造 | ○*2 | ○ | ◎ | |
公共、防災無線 - RCR STD-39、 ARIB STD-T61/T79/T86/ T98/T102/T115/T116 |
◎ | ◎ | ○ | |||
マイクロウェーブリンク | ○ | ◎ | ◎ | ◎ | ||
その他通信 | ○ | ○ | ○ | ◎ | ||
放送 - ISDB-Tmm、ISDB-T、 ISDB-Tsb |
◎ | ○ | ||||
研究 | ◎ | ○ | ○ | ◎ | ||
大学・教育 | ○ | ○ | ◎ | ○ | ||
アナログ無線(FM/AM/ΦM) | ○ | ◎ | ||||
*2:変調解析を除くスペクトラム測定に利用できる |
ポータブル型
ポータブル型は、主に通信設備や放送設備の保守点検や電波環境の観測を行うために作られたスペクトラムアナライザーである。屋外で利用するためバッテリー駆動であり、人が手に持って移動しながら利用するため小型、軽量になっている。
最近ではノートPCやタブレットとUSBケーブルで接続して使う操作パネルのないスペクトラムアナライザーが登場してきている。スペクトラムアナライザー本体がコンパクトになるため持ち運びしやすくなるメリットがある。
モジュール型
モジュール型のスペクトラムアナライザーは、イーサネット経由の制御を行う遠隔監視に使われる。顧客の使い方に合わせた製品の提供となるため形状は異なる。屋外設置のモジュール型スペクトラムアナライザーは長期に渡って厳しい環境で使われるため、耐環境性能が優れた製品となっている。
モジュール型スペクトラムアナライザーは主に電波環境や通信設備の常時監視に使われる。
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