共振子(1) ―― 水晶デバイスとは:中堅技術者に贈る電子部品“徹底”活用講座(57)(1/2 ページ)
今回からはマイコンや各種発振器、フィルターに使われる共振子について説明していきます。これらの共振子は回路的には完成度が高く、指定された使い方を間違えなければ正しく動作します。発振器として市販されている部品もありますので適材適所で使い分けることが肝心になります。
水晶とは
水晶は二酸化ケイ素(SiO2)の三方晶系の透明な単結晶で、同じ材料ながら含水した非晶質のものがオパールです。
特性的には偏光が発生しない光軸(Z)、電位に関する電気軸(X)、変形に関する機械軸(Y)の3つの結晶軸を持ち、天然物質の中では極めて安定な物性になっています。なおX軸、Y軸は入れ替えても動作しますが現れる機械歪のモードが異なってきます。
SiO2を主成分とするこの水晶片に機械的応力を加えると電気偏極(電荷の誘起)が発生する「圧電現象」と呼ばれる現象は真空管(1906年ごろに発明)やトランジスタ(1940年代末に実用化)に先立つ1880年フランスのジャック・キュリー(兄)とピエール・キュリー(弟)の兄弟によって発見されました(ピエール・キュリーはマリー・キュリーの配偶者)。
また、この現象とは逆に電気軸に電位差を与えると機械軸方向に伸縮する「逆圧電現象」と呼ばれる現象もあります。
水晶片は機械的共振が鋭い(Q値が大きい)上、同じ周期の交流電圧を加えてやれば水晶の圧電体としての性質により、この機械共振エネルギーを電気信号として取り出すことができます。この共振周波数は水晶の環境安定性に基づきますので他の素材に比して周囲環境条件に対して極めて安定であり、室温近辺で零温度係数持つことから周波数制御や周波数選択用の素子として使用されます。発振回路はこの信号を与えたり、大きく取り出したりするためのものです。
結晶のX, Y, Z軸に対して切り出し面の角度を変えると温度安定性や振動モードを変えることができますが現在では汎用としてはZ軸から35°15′の角度で切り出した図1に示す「ATカット」と呼ばれるカット法が標準的に用いられています。
このATカットでは豆腐をまな板上に載せ、まな板を左右にゆすって共振させた時のモードに例えられる表2のスベリ振動モードを利用しており、基本波、3倍波(オーバートーンモード)で使用されます。
一方、時計用などの水晶は32kHzで発振させるため図2、表2に示すようなU字型に切り出された音叉型振動子を屈曲モード(△←→U)で使用します。
- その他の振動モードとしては長さ方向へ振動する伸長振動モードや面内の対角方向へ振動する輪郭振動モード、などがあります。
- 水晶片の加工には従来は精密機械加工技術を使っていましたが素子の小型化に伴い半導体の技術であるフォトリソグラフィ(PEQ*)技術を導入する試みもされています(図3)。
これら加工用の水晶片は古くは天然水晶から選んで水晶片を切り出していたのですが、現在では生産性の面から水熱合成法**による人工水晶が用いられています。
* :Photo-Etched-Quartz (フォトエッチド工法とも呼称)
**:水熱合成法:高圧・高温の環境で水晶屑とアルカリ溶液を下部に、上部に水晶の種子をつるしたオートクレーブ内で育成する方式。温度360℃、圧力1000〜2000気圧、成長期間2〜6カ月
水晶振動子の製造の流れは図3を参考にすれば表1のような工程になります。
[1]水晶振動子と水晶発振回路のしくみ Design Wave Magazine 2007 Februaryから編集
[2]特開2005-197946
[3]EETimes Japan 水晶デバイス基礎講座:第3回から編集
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