半導体(2) ―― 実際に経験した不良と対策(I):中堅技術者に贈る電子部品“徹底”活用講座(61)(2/3 ページ)
今回からは半導体製造工程の流れに従って筆者が経験した不良について説明していきます。
高耐圧MOSFETの表面汚染
500V耐圧のパワーMOSFETの高温寿命試験(VGS=0、VDS=VDSS(MAX)×0.9、Ta=TCH(MAX)×0.9、1000Hr)後に漏れ電流IDSSが初期値(0.1μA以下)を大幅に上回る(数μA)劣化現象やVth(off)に変動(低下)が見られました。通常この程度のストレスでは特性値に誤差以上の変動は見られません。
なお、これらの値はカタログ値以内であるため、メーカーによっては正常と見なすかもしれませんが500Hrを超えて変動が収まらないため熱暴走の前兆と見るべきものです。
- モールド用のエポキシ樹脂を溶解して特性を測定すると初期値に戻るため、エポキシ樹脂の残留ナトリウムイオン濃度を減少させた品番に変更しましたが、改善はするものの初期値からの変動は残りました。
- FETの表面保護を検討したところ、高耐圧特有の表面保護処理がされておらず高電界部が直接エポキシ樹脂に接していました。通常このような未処理の工法は200V以下の品種においてのみ使われます。
【高耐圧MOSFETの表面汚染】
チップ表面は拡散終了後に空気中の水分を吸着します。また樹脂に含まれる微量の汚染物質(Na+など)もあります。図1(a)に示すようにこれらがチップ表面に吸着すると電界に引かれて水分中を移動し図1(b)のように+イオンが負極周辺に集まります。この集まった+イオンによって対応するP層中の電子が引き寄せられP層の一部をN反転させます。
これらのイオンは電界が除去されても急速には復帰せず図1(c)のように電子はP層の表面に残り、微少ですがVthなどを変動させます。この結果、ゲート電位を0Vに設定しても漏れ電流が増加したものと推定されます。
窒化膜 | シリコン窒化膜(Si3N4)とも呼ばれ、シリコンを窒素と反応させた膜で保護膜に使われます。 |
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PSG膜 | Phospho Silicate Glasses。 リン酸ガラスとも呼ばれNaイオンの捕獲力があります。 |
JCR膜 | Junction Coating Resin。 ポリイミド系樹脂で本来はICの層間絶縁用ですが表面保護膜としても使用されます。 |
【対策】
チップの表面保護処理には窒化膜、PSG膜、JCR膜、などがありますがスピンコートができることやNaイオンの補足効果のあることからJCR膜を採用しました。
その結果、他の対策と組み合わせて漏れ電流やVthの変動を抑制することができました。
ファブレスメーカーの拡散不良
また最近の形態であるファブ(Fab)レスメーカーについては次の事例があります。
- 前工程の拡散失敗によって海外ファブレスメーカー製ICの納期問題が発生。
- 最終セットメーカーへの納期遅延問題が発生。
- 問題の再発防止のために『詳細な報告の要求』および、『対策の確認を行いたい』旨を納入者に申し入れ。
- 納入者より『詳細な報告と品質監査はできない』と連絡があり、背景を調査した結果次のような問題があることが分かりました。ただし詳細な原因が報告できないという前代未聞の事態から推定して真因はISOに抵触するようなものではなかったかと今でも思っています。
- ICメーカーはファブレスであり前工程を外部に委託していますが、ICメーカーと製造委託先メーカーとの間にユーザーによる品質監査の立ち入りに関する契約がされていませんでした。
- 納入者は商社であり、契約内容を理解していなかった。
- 輸入代理店であったため、ICメーカーとの交渉力が不十分(ディストリビューター)だった。
注)海外ICメーカーは「自分たちこそがICについて一番よく知っている」といった立場をとる場合が多いのですがICメーカーのIC設計者自身の経験を除けば公開された教科書的な事象以外は何も知らない場合がほとんどです。アプリケーションに関してはユーザーの方がはるかに多くの経験をしています。この事実を自覚してもらう交渉が重要です。
(海外新興メーカーにはジョブホッパー(Job-Hopper)と呼ばれる転職者が多く、1カ所で多くの経験を積むことが少ない上に経験を切り売りするのでメーカーとしてのノウハウの蓄積が遅く、検査で代用しているのが現状)
また、この事例には部品の新規採用システムの運用の問題が同時にありました。運用上の問題は次の通りです。
管理システム運営上の原因
- 現業に押されて設計者からの新IC採用のアナウンスが遅くなり品質体制チェックが量産間際まで遅くなった。
- ファブレスであるため工場に関する項目が仕様書から欠落していた。
- 経営者判断で採用した幾つかの不備な仕様書の中の1品番が上記の結果を招いた。
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