SiCパワーMOSFETのデバイスモデル、オン時の容量考慮で精度が大幅向上:SiC採用のための電源回路シミュレーション(1)(2/5 ページ)
スイッチング動作が極めて高速なSiCパワーMOSFETを用いた電源回路設計では、回路シミュレーションの必要性に迫られることになるが、従来のモデリング手法を用いたデバイスモデルでは精度面で課題があった。本連載では、この課題解決に向けた技術や手法について紹介する。
測定値と合わないという課題
SiCパワーMOSFETのデバイスモデルは、さまざまな電気測定を実施すれば自らの手で作成できる。ただし、高い精度のシミュレーション結果を得るためには、測定しなければならない項目をしっかり吟味する必要がある。
まずは図2を見てほしい。従来のモデリング手法で作成したSiCパワーMOSFETのデバイスモデルを使ってスイッチング動作をシミュレーションした結果を、測定結果と比較した図である。スイッチング波形に現れるリンギングの形状やその周波数などは、測定結果とほぼ合致している。この点については、解析精度はかなり高いといえるだろう。
図2:従来は測定結果とシミュレーション結果が合わなかった
従来のモデリング手法で作成したデバイスモデルを使ってシミュレーションしたSiCパワーMOSFETのスイッチング動作である。Sパラメーターを考慮しても、測定結果とシミュレーション結果の間には比較的大きなズレがあった。[クリックで拡大] 出所:キーサイト・テクノロジー
ところが、SiCパワーMOSFETがターンオフするときにドレイン電圧が降下するタイミングやその傾きは、測定結果とかなり違っている。このシミュレーション結果を使って電源回路の変換効率を計算すると、測定値とかなりズレてしまう。一般に電源回路設計者は、変換効率の解析結果を重視する。その結果を考慮して、放熱対策などの基本方針を決めるからだ。そのため変換効率の解析精度が低ければ、「回路シミュレーションは使えない」と判断されてしまう危険性が高い。
従来のモデリング手法
それでは、従来のモデリング手法とはどのようなものだったのか。作成手順の大きな流れを以下で説明する。最初に、SiCパワーMOSFETのさまざまな電気的特性を測定する。その後、数多くの測定結果をモデリングツール(キーサイト製品であれば「IC-CAP2022」)に入力する。そして、モデリングツールでパラメーターを微調整することで、デバイスモデルパラメーターを抽出する。最後に、このデバイスモデルパラメーターを回路シミュレーター(キーサイト製品であれば「ADS2022」)に入れれば、電源回路におけるさまざまな電気的な振る舞いをシミュレーションできる。
この従来のモデリング手法で注目して欲しいのは、「どのような電気的特性を測定するのか」にある。これまでは、大きく分けて3種類の電気的特性を測定していた。具体的には、「IV(電流-電圧)特性」「CV(容量-電圧)特性」「Sパラメーター」である。
IV特性は、SiCパワーMOSFETのId-Vd(ドレイン電流-ドレイン電圧)特性や、Id-Vg(ドレイン電流-ゲート電圧)特性、ボディーダイオードの順方向/逆方向特性などである。CV特性は、SiCパワーMOSFETのCiss(入力容量)や、Coss(出力容量)、Crss(帰還容量)、Cgg(ゲート容量)などだ。IV特性とCV特性は、B1506Aなどのパワーデバイスアナライザーで測定する。
Sパラメーターを測定する目的は、SiCパワーMOSFETチップを収めたICパッケージの寄生成分、すなわち寄生抵抗や寄生インダクタンス、寄生容量を抽出することにある。ネットワークアナライザーを使ってSパラメーターを測定し、その後に数学的にYパラメーターやZパラメーターに変換することで、寄生抵抗や寄生インダクタンス、寄生容量を算出する。
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