ホットキャリアによるマイコンの不良:ハイレベルマイコン講座【ホットキャリア編】(2/4 ページ)
すでにマイコンを使い込まれている上級者向けの技術解説の連載「ハイレベルマイコン講座」。今回は、マイコン内のMOSFET(金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ:Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor:以下MOS)で生じる不良の1つ「ホットキャリア注入(Hot Carrier Injection:以下HCI)」について、その発生原因やマイコンに与える影響などを解説する。
電気的特性の変化
話をホットキャリアに戻そう。
ホットキャリアがゲート酸化膜やゲート電極に入り込むと、MOSの持つ電気的特性が変動する。図3に示したMOSの電気的特性は、(a)と(b)でゲート電圧の状態が異なるが、いずれも同一ドレイン電圧に対してドレイン電流が減少する方向に変動する。
すなわち、MOSのオン抵抗が大きくなり、ドライブ能力が落ちることになる。
コラム
半導体に携わっているエンジニアでも、MOSのソース(Source)とドレイン(Drain)を誤って認識している方が多い。ソースは「源」という意味だから「電源側」、ドレインは「排出する」という意味だから「接地側」という認識は間違いである。
MOSのソースとドレインは電子の動きが基準になっている。従って、電子が供給される接地側がソースで、電子が排出される電源側がドレインである。
製造上のホットキャリア対策
ホットキャリア対策において、LDD(Lightly Doped Drain)という言葉をよく聞く。LDDは、半導体に関する知識が浅い人でも知っている方が多い印象である。Webサイトをはじめ、さまざまな文献で詳しく説明されているので、勉強したのであろう。
LDDの他に、二重ドレイン(Double Diffused Drain:以下DDD)というドレイン構造も、ホットキャリア対策として使用されていた。しかし、MOSの短チャネル化に伴って、あまり使われなくなり、最近のホットキャリア対策はLDDが主流になっている。
LDDやDDDに対して、図1に示したような通常のドレイン構造は、シングルドレイン(Single Drain:以下SD)と呼ばれる場合がある。
(1)LDD(Lightly Doped Drain)
LDDは、チャネル領域とソース領域の間およびチャネル領域とドレイン領域の間に、ソース領域とドレイン領域の不純物濃度よりも低濃度のイオンを、ソース領域とドレイン領域の深さよりも浅く注入したものである。
不純物濃度が低いと欠乏層が広がって、電界強度が弱まりホットキャリアの発生を低減することができる。高い運動エネルギーを得て加速されたキャリアが、ドレインの直前で不純物の低濃度部分に達すると減速し、勢いが衰えることでホットキャリアを抑えるという仕組みだ(図4)
LDDの場合、ゲート電極の側壁にサイドウォールを形成する工程が必要だ。そのため、SDの製造工程よりも複雑になる。
(2)DDD(Double Diffused Drain)
LDDと同様に低濃度の不純物をチャネル領域に注入するが、ソース領域とドレイン領域を覆うように注入する。そのため、低濃度拡散の深度がソース領域とドレイン領域よりも深くなる点でLDDと異なる。製造工程はLDDよりも簡単だ。例えば、拡散係数の大きいリン(P)などを最初に注入し、その後拡散係数の小さいヒ素(As)などを注入することで、同一工程内で拡散係数の違いを利用して二重構造を作る。そのため、LDDで必要なサイドウォールが不要で、フォトマスクも変更する必要がない。しかし、最近の微細プロセスではリン(P)などの拡散速度が速く、著しく短チャネルになってしまう傾向がある。そのため、最近ではLDDが主流となり、DDDはほとんど採用されていない(図5)
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