GaNパワートランジスタとは:GaNパワー半導体入門(1)(1/3 ページ)
省エネ化/低炭素社会のキーデバイスとして、化合物半導体である窒化ガリウム(GaN)を用いたパワー半導体が注目を集めている。本連載では、次世代パワー半導体とも称されるGaNパワー半導体に関する基礎知識から、各電源トポロジーにおけるシリコンパワー半導体との比較まで徹底解説していく。第1回である今回は、GaNパワートランジスタの構造や特長、ターゲットアプリケーションなどについて説明する。
はじめに
主に電力変換に用いられるパワー半導体には高絶縁耐圧、低オン抵抗、低容量が求められる。これらの特性に優れたパワー半導体を使用することで、高効率なシステムを実現できる。絶縁耐圧、オン抵抗、容量といった性能は半導体素材の物性値により限界がある。現在主流の半導体素材であるシリコン(以下、Si)を用いたIGBT(以下、Si-IGBT)やパワーMOSFET(Si-MOSFET)といったパワー半導体は、構造を工夫することで性能を高めてきた。だが、構造の工夫も限界に近づき、技術改善の余地もあまり残っていない。そこで、Siよりも物性値そのものを大きく向上させた化合物半導体材料の活用が期待されている。その化合物半導体の代表例がGaN(窒化ガリウム)である。
表1に、主な半導体材料の物性値を示した。バンドギャップ、絶縁破壊電界は値が高いほど耐圧性能を向上させやすく、電子移動度と飽和電子速度は値が高いほど低オン抵抗化が容易になる。GaNは、これら全ての物性値でSiを上回っており、より高性能なパワー半導体材料として有望であることが分かる。
GaNと同じ化合物半導体であるSiC(炭化ケイ素)は、バンドギャップと絶縁破壊電界がGaNと同等である一方、電子移動度と飽和電子速度が劣るため、高速かつ低オン抵抗化の面ではGaNに軍配が上がる。SiCは、熱伝導率が高く放熱性に優れているため、素子のサイズが小さくても十分なトランジスタ性能を発揮する。GaNは、高速/低オン抵抗といった高周波駆動においてシステムの効率化に適している。SiCは、高速/低オン抵抗化の面ではGaNに及ばないものの、Siに対しては全体的な性能向上を望める。
本連載では、これから市場への普及が進むと考えられるGaNについて基本的な技術分野を中心に紹介していく。
GaNの構造
GaNを用いたMOSFET(以下、GaN-MOSFET)には、AlGaN(窒化アルミニウムガリウム)/GaNのヘテロ構造*1)をSi基板上に形成する「横型」と、GaN基板をそのまま使用する「縦型」がある。縦型は高耐圧化と高電流密度化が可能になる一方、GaN単結晶の製造が難しく基板が高価になるため、高電力変換向けなど特定用途での研究開発にとどまっている。一方でSi基板上に形成する横型は、高電流密度化は縦型に劣る。しかし低コストでGaNの高周波特性を得られるため、Siでは到達できない性能を持ったデバイスが実用化に至っている。
*1)ヘテロ構造:異なる半導体材料を接合した構造
AlGaN/GaNヘテロ構造では、強い分極により界面に高密度な電子ガス(2DEG:2-dimensional electron gas)が発生し、高い電子移動度と併せて低オン抵抗化が期待できる。しかし、構造的にドレイン/ソース間が導通している状態(図1)になる。そのため、スイッチング素子として使用するためには一般的なSi-MOSFETやSi-IGBTと同じようにノーマリオフ動作*2)を実現しなければ、回路が複雑になり、使いづらく、普及の障害になる。そこで、低耐圧Si-MOSFETと組み合わせたカスコード型(図3)と、ゲートにp型GaN(以下、p-GaN)を採用した型(以下、HEMT型)(図4)の2種類のノーマリオフ型のGaNパワートランジスタが登場した。
*2)ノーマリオフ動作:ゲート電圧(制御電圧)を印加しない場合に電流が流れずオフになる動作。逆に電流が流れオンになることをノーマリオン動作という
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.