マイコンの仕様を超える条件で使ったら、何が起きる?【後編】:ハイレベルマイコン講座(4/5 ページ)
本記事では、マイコンにストレスを与え続けて動作させた場合、どのような不良現象が現れるかを2回にわたり詳しく解説する。第2回となる今回は、前回まとめた「不良現象のメカニズム」の各項目について詳しく解説する。
(8)可動イオン
これは、もともと製造工程の不良で、ゲート酸化膜やフィールド酸化膜に不純物として入り込んでいたNa+(Naイオン)やK+(Kイオン)が、高電圧と高温によって膜内を動き、MOSのしきい値を変えてしまう現象だ。この不良が起きると、製造ライン全体が汚染されている恐れがあるので、全ての製造ラインを洗浄し、対策を施す必要があるが、通常は万全の対策が施されているので、めったに起きることはない。
しかし、正常に製造された製品でも、ごくわずかに残留していたNa+やK+が、マイコンの仕様を超える高電圧、高温によって、可動イオン化し、しきい値を変動させる場合がある。MOSのしきい値が変化するため、論理動作やアナログ動作が異常になる。
この不良は、高温でエネルギーを得た可動イオンが高電圧で移動して発生するため、高電圧と高温の重なった条件で発生する。従って、高温または常温で、高電圧を取り除いて放置すると正常に戻るのが特徴だ(図5参照)
(9)ホットキャリア注入
MOSの伝導チャネルのキャリアが高電圧によって運動エネルギーを得て、基板の伝導チャネルからゲート酸化膜に侵入し、MOSのしきい値を変動させる現象。主にNMOSで発生する。NMOSのキャリアは電子で、ソースからドレインに移動する。電子は、チャネル領域で高電圧によって高い運動エネルギーを得て加速され、ドレイン近傍で最速になる。その一部が勢い余ってゲート酸化膜に入り込み、さらにはゲート酸化膜も飛び越えてゲート電極まで入り込む(図6参照)
詳しくは、「ハイレベルマイコン講座【ホットキャリア編】:ホットキャリアによるマイコンの不良」を参照していただきたい。ホットキャリア注入も、しきい値が変動するため、論理動作やアナログ動作が異常になる。
常温で、高電圧を取り除いた状態で放置しても、一度ゲート酸化膜まで入り込んだキャリアは抜けないので、正常に戻らない。しかし、電圧を印加せずに高温放置すると、熱エネルギーを得たキャリアがゲート酸化膜から飛び出して、正常に戻る場合がある。
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