マイコンの仕様を超える条件で使ったら、何が起きる?【後編】:ハイレベルマイコン講座(3/5 ページ)
本記事では、マイコンにストレスを与え続けて動作させた場合、どのような不良現象が現れるかを2回にわたり詳しく解説する。第2回となる今回は、前回まとめた「不良現象のメカニズム」の各項目について詳しく解説する。
(5)エレクトロマイグレーション
メタル配線に過大電流が流れると、メタル層が熱で断線することは良く知られている。しかし、メタル層断線の原因は、過大電流だけではない。メタル配線に電流密度の高い電流を流し続けると、大量の金属イオンの移動が原因で、メタル配線が徐々に劣化し、最悪の場合、断線に至る。分かりやすくいえばメタルが溶けるイメージだ。メタル配線の電流密度は設計時にきちんと計算されており、仕様内の環境ではまったく問題は起こらない。
しかし、仕様よりも高電圧を印加して電流密度を上げ、さらに、仕様よりも高温状態にして金属イオンに熱エネルギーを与えると、金属イオンの移動量が急激に増えてメタル配線を劣化させる。不良現象としては、メタル層が断線したり、抵抗値が増大したりするため、論理動作やアナログ動作が異常になる。一度劣化したメタル配線は、二度と元に戻らない。
(6)ピンホール
パッケージ表面にピンホールができると、そこから水分が侵入し、内部の腐食やリーク電流増加などの耐水性/耐湿性の不良を引き起こす場合がある。ただし、シリコンチップの表面には保護膜があり、外部からの水分や汚染物がメタル層や拡散層まで到達することはないため、ピンホールによって必ずしも不良が発生するとは限らない。
また、マイコン内部において、エレクトロマイグレーションなどによるメタル層の劣化や、酸化膜などの絶縁層の劣化により、極小面積の短絡経路ができることもピンホールと呼ばれる。配線層と電源間にピンホールができると、消費電流過大や、リーク電流過大などを引き起こす。一度できたピンホールは、二度と元に戻らない。
(7)ネガティブバイアス
MOSを回路図で記述する場合は省略することが多いが、実際のMOSには基板電圧がかかっている(図4参照)
PMOSのゲート電圧に対し、基板電圧が負の状態(基板電圧<ゲート電圧)でシリコンチップの温度が上昇すると、PMOSのしきい値電圧の絶対値が徐々に大きく変動する。PN接合や配線の不良など、何らかの原因で負の状態になっているところに高温状態が重なると、MOSが正常な動作をしなくなる。そのため、論理動作で誤動作が起きたり、アナログ動作が異常になったりする。
この現象は、常温で高電圧を取り除いて放置すると正常に戻る場合があるが、高温で高電圧を取り除いて放置しても正常に戻らない。
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