パワエレの主流になりつつあるSiC技術:コストが大きな障壁だが(1/3 ページ)
SiC(炭化ケイ素)技術は今や、パワーエレクトロニクスの主流になりつつある。本稿では、米国で開催された「APEC 2023」(2023年3月19〜23日)における企業の出展内容を通してSiCデバイスの最新動向を紹介する。
SiC(炭化ケイ素)技術は今や、パワーエレクトロニクスの主流になりつつある。米国フロリダ州オーランドで開催された「APEC 2023」(2023年3月19〜23日)でもその傾向は明白だった。SiC半導体は、さまざまなアプリケーション需要においてシリコンを補完し、650V〜3.3kVの範囲での高電力/高速スイッチングを容易にすることで、新しいソリューションを実現することが可能になった。
コンポーネントレベルでコスト削減は進む
APEC 2023では、基調講演の登壇者やセミナーの発表者たちが、SiCデバイスが、次世代パワーエレクトロニクスに貢献する、いかに重要な位置付けにあるかを説明していた。同時に、ノウハウや学習サイクルの開発が必要であることや、SiCデバイスをパワーエレクトロニクスシステムに適切に組み込むことが可能な熟練労働力の必要性も高まっていることなども強調された。
SiCコンポーネントに関しては、コストが重要な問題であるとの見解で一致している。しかし同時に、コストはアプリケーションに依存するものであるため、巧みなエンジニアリングによってシステムレベルで削減可能だという見方も、広く認識されている。Infineon Technologies(以下、Infineon)でWBG(ワイドバンドギャップ)部門担当シニアディレクターを務めるPeter Friedrichs氏は、「SiC技術では引き続き、コンポーネントレベルでコスト削減が進むだろう」と述べる。
InfineonはAPEC 2023において、Infinitumの「Aircore EC motor」を披露した。既存モーターで使われている重い鉄を、軽量のPCB(プリント配線基板)に置き換え、既存モーター比で50%の小型軽量化と10%の高効率化を実現。同時に、銅の使用量も66%削減することが可能だという。同モーターは、Infineonの「CoolSiC MOSFET」をベースに構成されている。
STMicroelectronics(以下、ST)は、急速DC充電アプリケーションのパワーコンバーターに向けた25kWデュアルアクティブブリッジ(DAB:Dual Active Bridge)リファレンスデザインと、最大800Vのバッテリーシステムに対応したEV(電気自動車)/HEV(ハイブリッド車)向けのトラクションインバーターを披露していた。1200VのSiC MOSFETをベースに、ガルバニック絶縁型ゲートドライバーを搭載するという。
なお、STの車載パワートランジスタ部門担当米州マーケティングマネージャーであるGianluca Aureliano氏は、同社がEV以外にも、産業分野やソーラー、鉄道などのさまざまなアプリケーション向けに、SiCベースのソリューションを開発していることを強調している。
STは、2007年に同社初となるSiCダイオードを、2014年には同社初のSiC-MOSFETをそれぞれ発表している。そして現在製造している第3世代SiCデバイスは、車載用品質の認証を取得している。Aureliano氏は、「コストが重要な問題であることは認めるが、それはSiCが新しい材料であるためだ」と指摘する。
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