ステップダウン形DC/DCコンバーターの設計(3):たった2つの式で始めるDC/DCコンバーターの設計(5)(3/4 ページ)
今回は前回説明しきれなかったチョークの要求特性について説明し、続いて今回の目標であるリップル電圧を図式解法で導けるかを検討します。
リップル電圧の図式解法
この項は「2つの式」を離れて図式解法で進めていきます。図を表現するための式であり基本は1次式ですから図と照らし合わせれば式の意味は容易に理解できます。
①キャパシターCへの充電は図2の▲部エリアに示すようにチョーク電流ILが出力電流Io以上の期間(tC)のみに行われます。そして
②それ以外の期間(tS-tC)はキャパシターCの電荷を放電しながら負荷抵抗RLへ出力電流Ioを供給することになります。
上記の関係を図2に示します。図2から分かるように、チョーク電流ILが出力電流Ioを超えている期間(tC)は三角形の比例関係から4式で表せます。
(定常状態では充電電荷=放電電荷)
したがってチョーク電流ILがキャパシターCを充電する電荷Qは図2の▲部の面積になります(Q=∫i dt)。積分の式で書いてありますが三角形(▲)の面積(1/2×底辺×高さ)を求めているだけです。
ここでV(out)=V×δ ⇒ V=V(out)/δを代入して5式を表すと次のようになります。
リップル電圧ΔVrは電荷Qを電圧に換算したものですのでCの定義式(C=Q/V)に従って7式で計算します。
シミュレーションでの確認
LT-Spiceに図2の定数(δ=0.5、L=100μ、C=100μ、tS=10μs、V(out)=5V)を設定し動作を確認します。表1の結果の比較からシミュレーション(Spice)と計算結果は誤差1.0〜1.5%の精度で一致し、ここで紹介した各計算式が十分に設計に使えることが分かります。
ここまで説明してきた内容はキャパシターCに理論値を設定しています。しかしキャパシターCに用いる実際のアルミ電解コンデンサーにはESRと呼ばれる無視できない抵抗成分が存在します(セラミックキャパシター、導電性高分子キャパシターのESRはかなり小さい)。
図4にアルミ電解コンデンサーの中でも低ESR品と呼ばれる品種の代表的な例を示します。缶サイズが大きい下段のグループでも10kHz以上で60mΩクラスのESRを示しています。
図4:アルミ電解コンデンサーのインピーダンス特性[クリックで拡大] 出典:アルミ電解コンデンサのインピーダンスとESR実測データ http://www.op316.com/tubes/datalib/c-imp-esr.htm
したがって実際のアルミ電解コンデンサーを使う時にはキャパシターCは(1/(jωC)+ESR)によるインピーダンスとして考えなくてはなりません。さらに周波数をDC/DCコンバーターの動作周波数である100kHz以上に限ればリアクタンス成分はESRの数十分の1ですからインピーダンスはESRだけと考えても支障がなくなります。
このような背景からDC/DCコンバーターにおいてキャパシターCにアルミ電解コンデンサーを使用するとリップル電圧は次の8式のキャパシターのESRが左右することになります。ですからESR=60mΩのアルミ電解コンデンサーに250mAP-Pのリップル電流ΔIが流れると150mVP-Pのリップル電圧が生じます。なおこのESRは低温で大きくなりますので測定は低温時に行う必要があります。
このように単に理論値をシミュレーターや計算式に入力したからと言って正しい値が得られるわけではありません。シミュレーションや理論計算では常に結果の妥当性が求められ、仕様を満足したからといって正しいデータを入力したかは別物です。設計に従事する者にとっては常に心掛けなければなりません。
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