ステップダウン形DC/DCコンバーターの設計(3):たった2つの式で始めるDC/DCコンバーターの設計(5)(4/4 ページ)
今回は前回説明しきれなかったチョークの要求特性について説明し、続いて今回の目標であるリップル電圧を図式解法で導けるかを検討します。
キャパシターCの注意点
リップル電圧ΔVrが8式で決まるなら仕様を満たすにはESRを下げることが対策になります。ESRは使用する電解液や陽極箔によって変わりますが同一耐圧なら電解液や陽極箔は同一です。したがって缶サイズの大きい品種ほどESRは小さくなります。また低背品ほどアルミ箔の利用率が低下しますので同一定格でもESRは大きくなる傾向にあります。
このような配慮をしても必要なESRに達しない場合は缶サイズの大型化よりも複数の小型品を並列に用いた方がESRを小さくできる場合がありますので検討してみる価値はあります。
どうしてもリップル電圧仕様を満足しない場合は高周波域でESRが小さいセラミックキャパシターや導電性高分子キャパシターなどで構成されたLCフィルター回路を出力側に付加しなければなりません。このLCフィルターは負帰還制御のループの外につけた方が回路の安定性は高くなります。
このようにリップル電圧の大きさがESRによって左右されるということは負帰還制御を施した場合、帰還される高周波領域の信号量が変わるということに直結します。
この状態でキャパシターCをアルミ電解コンデンサーからセラミックキャパシターや導電性高分子キャパシターに単純に置き換えるとリップル成分(ESR成分)が減少し、高周波領域の帰還量が減少しますので機器全体の位相特性が変化します。その結果、アルミ電解コンデンサーでは異常発振していなかった制御系がキャパシターCを置き換えた系では異常発振することが時として見られます。製造中止などで代替品に置き換える場合にはこのような観点も必要になります。
一方、近年のCMOSを主体とした半導体の技術に進歩により数ワット程度の小型DC/DCコンバーターでは1MHzの周波数が実用化の域になってきています。このような帯域ではもはや湿式アルミ電解コンデンサーでは対応できず、ESRやESLに優れたセラミックキャパシターを使うことになります。この場合にはほぼ理論値通りのリップル電圧になるのですがこの周波数域では逆にESRよりも回路基板の残留インダクタンスがリップル電圧に影響を与えるようになってきます。計算値から数倍も離れた値になる場合には等長配線や誘導磁束のキャンセル、最短距離配線など部品のレイアウトを見直してください。
今回はチョークの説明をするとともにリップル電圧の求め方について図式解法で求める場合について説明しました。
その結果、ステップダウン形DC/DCコンバーターの出力リップル電圧は負荷依存性がなく、LCの時定数や発振周波数に逆比例し、入力電圧が高いほど大きくなることが分かりました。
しかし、この法則はあくまでもキャパシターが理想であることを前提にしています。実際には湿式アルミ電解コンを用いた場合はキャパシターのESRが左右することになり、1MHz動作ではコンバーター以外の要素が左右することになります。設計に当たっては動作周波数によって配慮すべきポイントが異なってきますので一律に考えないでください。
次回はいままで前提にしてきた電流連続性が切れた場合のコンバーターの振る舞いについて検討します。
執筆者プロフィール
加藤 博二(かとう ひろじ)
1951年生まれ。1972年に松下電器産業(現パナソニック)に入社し、電子部品の市場品質担当を経た後、電源装置の開発・設計業務を担当。1979年からSPICEを独力で習得し、後日その経験を生かして、SPICE、有限要素法、熱流体解析ツールなどの数値解析ツールを活用した電源装置の設計手法の開発・導入に従事した。現在は、CAEコンサルタントSifoenのプロジェクト代表として、NPO法人「CAE懇話会」の解析塾のSPICEコースを担当するとともに、Webサイト「Sifoen」において、在職中の経験を基に、電子部品の構造とその使用方法、SPICE用モデルのモデリング手法、電源装置の設計手法、熱設計入門、有限要素法のキーポイントなどを、“分かって設計する”シリーズとして公開している。
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