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NHTSAの最新AEB規定が自動車業界に与える影響「2030年モデル」へのAEB搭載を義務化(2/4 ページ)

米国高速道路交通安全局(NHTSA)は、2029年9月までに全ての新型乗用車「2030年モデル」に自動緊急ブレーキ(AEB)システムを標準装備することを義務付ける新たな指令を最終決定しました。本稿では、NHTSAの最新のAEB規定が自動車業界と消費者に与える影響について解説します。

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NHTSAの計画

 NHTSAは2016年、米国の全自動車販売の99%を占める20社の自動車メーカーに対し、2022年までに何らかの形でAEBシステムを乗用車の標準装備とするよう、自主的な要請を行いました。しかし、NHTSA が2020年に発表した別のレポートでは、AEBシステムを標準機能として搭載しているのは、20社のメーカーのうちわずか10社のみであることが指摘されました。NHTSAは2023年5月、対人事故や追突事故の防止を目的に乗用車や軽トラックに自動ブレーキの搭載を義務付ける規則制定提案告示(Notice of Proposed Rule Making:NPRM)を発行し、AEBシステム搭載を義務化する動きを強めました。2016年に行った最初の要請から2023年の最新の提案までの間に、道路安全保険協会(IIHS)は図2のようなフォローアップレポートを発表しています。

【図2】2020年から2022年にかけて、ほとんどの自動車メーカーが大幅な伸びを示している
【図2】2020年から2022年にかけて、AEBシステム搭載についてほとんどの自動車メーカーが大幅な伸びを示している [クリックで拡大] 出所:IIHS 米国道路安全保険協会

 IIHSのデータ(2022年)とNHTSAの2020年のレポートを比較すると、2022年には20社のメーカーのうち14社が自社の車両の少なくとも95%に何らかの形のAEBシステムを装備しているのに対し、2020年には10社しか装備していないことが分かります。また、2023年には、全てのメーカーがAEBシステムの導入が再び増加するとの見方を示していて、GM(General Motors)では、2023年モデルの98%にAEBシステムを搭載する予定だと発表しています。

 このように、2020年から数年の間でAEBシステムの搭載が急激に増加しました。そのため、「NHTSA AEB規定が施行される前に全てのメーカーが何らかの形のAEBシステムを搭載し、NHTSA AEB規定が意味を成さなくなるのではないか」との懸念が生まれました。

 しかし、NHTSA AEB規定の重要性は、作成された理由を理解することで再確認できます。まずは、提案されているプランの意図を正確に把握することが重要です。

 NHTSA AEB規定では、車両同士の衝突事故の場合、運転者がブレーキを踏まなかった時には時速50マイル(時速80km)まで、運転者がブレーキを踏んだ場合でも時速62マイル(時速99.2km)までの速度で他の車両との衝突を回避する必要があると定めています。想定しているシナリオとしては、停止している車両との事故、低速で走行する先行車両との事故、減速中の先行車両との事故などが含まれています。

 車両対歩行者の事故の場合は、全ての車両は時速40マイル(時速64km)までの速度で対処する必要があります。提案されているシナリオでは、(左または右の)横断歩道の歩行者に接近する車両、車両の進路に沿って静止する歩行者、車両の進路に沿って歩く歩行者が含まれます。また、AEBシステムは夜間でも機能する必要があります。NHTSAによると、米国では歩行者の死亡事故の70%以上が夜間に発生していますが、AEBシステムを搭載することで、米国で年間360人の命を救い、負傷者を少なくとも年間2万4000人減らすことができるといいます。

 この提案は、2024年4月末に承認され、2029年9月から2030年モデルにAEBシステムの標準装備が義務付けられることになります。

 しかし、ほとんどの自動車が既に何らかの形のAEBシステムを搭載している他、欧州新車アセスメントプログラム(Euro NCAP)では、より高いレベルの機能とより安全な車へと導く段階的な評価システムが確立されています。このような状況の中で、NHTSAが提案する高い能力評価システムの(強制的な)導入が、より多くの命を救うことができるかは疑問です。

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