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NHTSAの最新AEB規定が自動車業界に与える影響「2030年モデル」へのAEB搭載を義務化(3/4 ページ)

米国高速道路交通安全局(NHTSA)は、2029年9月までに全ての新型乗用車「2030年モデル」に自動緊急ブレーキ(AEB)システムを標準装備することを義務付ける新たな指令を最終決定しました。本稿では、NHTSAの最新のAEB規定が自動車業界と消費者に与える影響について解説します。

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AEB規則:米国対欧州

 2030年モデルにAEBシステムを標準装備するという目標は、過去3年間の技術の急速な発展や、一般的な自動車の開発期間が約3年であることを考慮すると、短期的なインパクトを与えるには消極的な目標かもしれません。

 EU内で自動車の安全性を評価する方法として認められているEuro NCAP評価では、2019年以降に5つ星を獲得するためには、AEBシステムを導入する必要があります。さらに、EU委員会は2022年以降に販売される全ての新車に車両対車両用AEBシステムの搭載を義務付け、2024年からは車両対歩行者用AEBシステムの搭載も義務付けました。

 さらに、NHTSA AEB規定とEuro NCAP評価では、適用範囲が大きく異なります。いずれも車両対車両および車両対歩行者のAEBシナリオ(成人/子供歩行者ターゲットおよび夜間条件を含む)をカバーしています。しかし、Euro NCAP評価では、車両対自転車および車両対オートバイや、(左折または右折)車両または後進車両による車両対歩行者など、より幅広い交通弱者(VRU:Vulnerable Road User)を考慮しています。

AEBシステムの理解

 主要な先進運転支援システム(ADAS)の1つであるAEBシステムは、特に車両の前後衝突や車両と歩行者との衝突に対して大きな効果を発揮する強力な車両安全対策です。一般的なAEBシステムは、可視波長イメージセンサー、LiDAR、レーダーを組み合わせて使用し、衝突につながる可能性のある物体を検知します。車両はリアルタイムで画像を分析し、衝突の危険が迫った場合はドライバーに警告を発してブレーキをかけます。ドライバーが一定時間内に警告に反応しない場合、システムはブレーキをかけて車両を停止させる措置を講じます。

 イメージセンサーの場合、AEBシステムの要件は、視野(FOV)、解像度、フレームレート、ダイナミックレンジ、露光回数(レイテンシ)、低照度性能要件に置き換えられます。これは、イメージセンサーの特性が、物体検出可能性、物体検出レイテンシ、アルゴリズムが失敗する原因となるコーナーケース条件の回避に直接影響するからです。

 図2に示すように、何らかの形のAEBシステムを搭載した車両の割合は大幅に増加していますが、大きな変化はこれだけではありません。近年、自動車の基礎技術は大きく発展しています。処理システムはより強力になり、通信システムはより高速で高いデータレートで動作し、センサーは特に低照度条件下でより正確になりました。これらの要素は全て、より幅広い状況で人命を救う可能性のある動作を実行できる、よりスマートで信頼性の高いAEBシステムの実現に役立ちます。

 車両速度が最も速い(停止距離が最も長い)車両対歩行者のシナリオを考えてみましょう。車両が、車両の進路に沿って歩いている歩行者に近づいています。車両の速度は時速40マイル(時速64km)まで可能ですが、歩行者は時速3.1マイル(時速4.96km)で歩いています。このシナリオでは、一般的な都市部の前方ADAS角度FOVが120度であることを考慮すると、三角測量法を使用して約2480ピクセルの最小(水平)解像度を導き出すことができます。歩行者一人あたり8ピクセルの要件を想定し、最高時速40マイルで走行する車両の停止(ブレーキ)距離では、適切に認識するには0.5秒〜1秒の応答(反応)時間と適切なブレーキレベルが必要です。

【図3】対歩行者用自動車ブレーキシステムのテストシナリオ例 - 進路に沿って移動中の歩行者、基本セットアップ
【図3】対歩行者用自動車ブレーキシステムのテストシナリオ例 - 進路に沿って移動中の歩行者、基本セットアップ[クリックで拡大] 出所:onsemi

 NHTSA AEB規定の最新版(2024年)では、2016年の勧告にはなかった、低照度下や夜間における正確な歩行者の検知要件が示されています。夜間のシナリオについては、0.2ルクスの環境光レベル(月明かり条件)と車両のロービーム/ハイビームライトに言及しています。一方で、Euro NCAPとは異なり、車両ライトの照度レベルについては規定されていません。

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