トランスコアの温度
コア温度の測定は、トランスに巻き線を巻く前に、ボビンに熱電対を取り付けて行います。これで、コアの内部温度を正しく正確に測定できますが、巻き線内の電圧勾配は、最大のホットスポットが必ずしもボビンの中央にあるわけではないという結果をもたらす可能性があります。
実用的ヒント
巻き線内に発生する電圧は非常に高いものです。静電効果は、巻き線内で非常に高い電位を発生させ、高いdv/dtの電圧スパイクが、たとえ巻き線から絶縁されていても熱電対センサーに結合する可能性があります。熱電対センサーのアンプは、実際上GNDへの低インピーダンス経路であり、スパイクやエネルギー放出により簡単にダメージを負います。唯一の対策は、トランスのコア温度を測るためには、絶縁型の熱電対アンプを使用することです。
トランスの温度をチェックする他の方法として、熱画像カメラを使う方法があります。高価な装置ですが、極低温に冷却する必要のない室温赤外線センサーのおかげで、以前に比べれば安くなったと言えます。資金的に差し支えがない範囲の最高解像度を、購入または賃借りできます。2倍のレンズを追加するのも良い投資です。高品位の赤外線カメラはビデオ撮影も可能です。これは非常に便利な機能で、室温で機器に電源を入れ、温度差が最終的な動作温度で全て同じになる前に、簡単に局部的なホットスポットを発見することが可能です。
トランスの巻き線とコアの温度の違いが、簡単に見分けられます。左側の3つの高温部品は、クランプ回路の並列に配置したスナバ抵抗です。右側の2つの高温部品は、出力整流ダイオードです。
トランスのコア温度をモニターする場合に、周囲温度をステップ上昇させる方法が使われます。周囲温度が上がりますが、温度変化(周囲とコア温度の差)は一定です。例えば、周囲温度が25℃時にコア温度が85℃ならば、周囲温度が40℃の場合コア温度は100℃より高くならないはずです。温度変化が偏向し上昇し始めたら、それは設計の限界に至ったという明確なサインです。
絶対的な温度測定の代わりにステップ温度測定を使う方が、温度ドリフトを確認するのに役立ちます(トランスは高温になるので、トランス周辺の周囲温度は恒温槽を使ったとしても一定ではなく、測定値は時間を伴って常にドリフトする)
許容できる最大の周囲温度は、単純にトランスのコアがワーストケース入力電圧と全負荷において最大の制限値に至ったときの温度です。トランスのコア温度の限界はコアのグレードに依存しますが、低くとも105℃でマグネットワイヤのタイプと絶縁材料のグレードにも関係します。表1は、一般的なトランスのクラスと制限値です。周囲温度のさらなる上昇には、コアの発熱を低減するため負荷をディレーティングして補償します。
トランスグレード (絶縁温度クラス) |
周囲温度からの最大温度上昇 | 正常動作時の最大コア温度 | 障害時の最大コア温度 |
---|---|---|---|
クラスA | 60℃ | 105℃ | 150℃ |
クラスE | 75℃ | 120℃ | 165℃ |
クラスB | 80℃ | 130℃ | 175℃ |
クラスF | 100℃ | 155℃ | 190℃ |
表1:一般的なトランスのクラス |
相当する安全マージンを取ることによって、トランスは正常動作において早期に故障することはありません。
*ホットスポット許容は、トランスの最も高温な部品における温度センサー取り付け不良に関する許容要素です。これは、小型トランスでは5℃、大型では30℃と一様ではありません。
最大動作周囲温度85℃において、自己発熱による温度上昇が25℃、ホットスポット許容差が5℃であれば、クラスBのトランスでは15℃の安全マージンがあることになります。
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※本連載は、RECOMが発行した「DC/DC知識の本 ユーザーのための実用的ヒント」(2014年)を転載しています。
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