MCUの「礎」的存在、Microchip「PIC16」:マイクロプロセッサ懐古録(3)(4/4 ページ)
今回は、MCUを語る上で欠かせない存在であり、出荷数は累計数百億個に上るであろう「PIC」シリーズを語る。とりわけ「PIC16」は、アーキテクチャどころか製品としてもまだまだ現役である。
大ヒットとなったEPROM内蔵PIC16
話を戻すと、このEPROM内蔵PIC16の売れ行きは非常に好調であり、同社はIPOを果たし、米アリゾナ州テンピ(Tempe)に新工場(Fab 2:ちなみに2025年第3四半期に閉鎖がアナウンスされている)を建設。より大量の製品を製造できるようになり、製品ラインアップも拡充されてゆく。8bitではPIC16の下位製品としてPIC10/PIC12を、上位製品としてPIC17/PIC18を用意。また16bit MCUとしてPIC24と、これにDSP的な機能を追加したdsPICを投入。32bitに関してはちょっと投入が遅れたが、まずMIPSベースのPIC32を投入し、次いでCortex-MベースのPIC32C、そしてつい最近PIC24を32bit拡張した独自コアのPIC32Aを投入している。ちなみにPIC14は欠番だが、代わりにMixed Signal Controllerの「PIC14000」という製品がある。命令セットそのものはPIC16CXXと完全に同じであるが、10/16bit ADCやLevel Shifter/Comparatorなどアナログ周辺回路を強化した特定用途向けといった感じのものになっている。
互換性は重視しない
Microchipのポリシーというか割り切りは、Compatibilityをあまり重視しないことだ。先にPIC1640/1650のOpCodeが12bitで、PIC1670が13bitに拡張されたと書いたが、PIC16CXXシリーズはこれが14bitになっている。このレベルで違っているとCompatibilityもへったくれも無い訳だ。ちなみにPIC10とかPIC12は12bit OpCodeあるが、これも古のPIC1640/1650とは異なるものになっている。最近でこそプロセスの微細化などのおかげで、MCUであってもギリギリまで機能を詰めなくても十分実装できる様になっていたが、PIC MCUが興隆し始めた1990年代はまだまだ厳しい状況であり、必要とされる機能を実装しつつギリギリまでコストをそぎ落とそうとした結果、互換性は後回しになってしまったというのが正確なところなのかもしれない。この結果として、例えばPIC16互換のコアを出しているメーカーの製品も
- ELAN Microelectronics:13/15bit OpCode
- Holtek Semiconductor:14/15/16bit OpCode
- Padauk Technology:13/14/15/16bit OpCode
と、何をもって「互換」とするのか問い詰めたくなるようなラインアップになっている。筆者が思うに、Binary Compatibleはもう捨てていて、Sourceがある程度Compatibleであれば良し、という思想なのだろう。実際Embeddedでは「良くある」とは言わないが、ある程度の書き直し/コンパイルし直しは割と普通の事である。
2015年の時点で、PIC17/18/24/dsPIC/PIC32を含まない(つまりPIC16以下)製品の数は1004種類に達し、2013年には累計120億個のPIC MCUを出荷しており、現在もまだ出荷が続いているという、MCUを語る際には欠かせない製品がPICであり、その基礎を作ったのがPIC16である。
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