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ロングランの本格DSP、TI「TMS320」登場に至る長い道のりマイクロプロセッサ懐古録(8)(2/3 ページ)

今回はDSPの話を取り上げたい。DSPといえば、Texas Instruments(TI)の「TMS320」は欠かせないが、TMS320登場に至るまでには長い道のりがあった。

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DSPの“一歩手前”まで来た「S2811」

 もうちょっと進んだものとして、同じく1978年にAMI(American Microsystems, Inc.)から発表されたのが「S2811」である(図6)。同社はこれをSPP(Signal Processing Peripheral)と称しているが、これはS2811が単体では動作しないからだ。AMIはMotorolaとMC6800のセカンドソース契約を結び、これをS6800として製造・販売していたが、S2811はこのS6800と組み合わせて動作する(他にも8080/8085/Z80に対応)仕組みだった。内部には16ByteのScratchPadと265Byte×2のRAM、256ByteのROMが置かれ、12bit×12bitの乗算と16bitのShifterとALUが搭載され、最大100kHzの信号のリアルタイム処理が可能という仕組みとされ、また内部にInstruction DecoderとかMemory Address Logicも搭載されていた。あとは自分で実行制御ができればDSPを名乗っても支障ないところだったのだが、これは外部のプロセッサに任せることになっていたのが残念だった。あとS2811はVMOS(Vertical DMOS)と呼ばれたプロセスを採用したが、このプロセスの量産に苦労して出荷が大分遅れたのも痛く、結局シェアはほとんど取れなかった。AMIはこのS2811にあらかじめプログラムを入れた派生型(例えばS28214はFFTの処理をROMに実装しており、10kHzでリアルタイムにスペクトル分析が可能とされた)も用意していたが、同様の運命をたどっている。

図6:こちらの図ではRAMが128×16が1個だけなのだが、別の図ではこれが2つになっている。まぁいろいろ謎である。あと、ROMはData Memoryの扱いになっており、Programそのものは内蔵されない[クリックで拡大]

,図6:こちらの図ではRAMが128×16が1個だけなのだが、別の図ではこれが2つになっている。まぁいろいろ謎である。あと、ROMはData Memoryの扱いになっており、Programそのものは内蔵されない[クリックで拡大]

Intel「2920」も、DSPではない

 翌1979年、Intel「2920」がリリースされた(図7)。簡単ではあるが自分で実行制御ができ、Signal Processingを行って連続的に出力できるというDSPの先駆けのような構成ではあるのだが、Intelの2920のページにも"signal processor"とは書かれているが、"Digital"Signal Processorとは書かれていない。何と2920、肝心の音声データのフィルタリングがアナログ回路で構成されているのである。ついでに言えばデジタル部の処理性能もかなり低く、ALUには乗算器が無く加算のみで、しかもCycle Timeは400ナノ秒と結構遅い。もちろん、パイプライン動作にはなっていない。機能もかなり少なく、演算性能も低いとあればできる事に限りはある。Intel的には複数の2920をディジーチェーン式につなぐことで複雑なフィルターを構成できるといった使い方を考えていた節があるが、そうした採用事例は出てくることなく、市場から撤退していった。

図7:ADC/DACも内蔵し、アナログ信号のまま入力してアナログ信号として出力できるというあたりもちょっと特徴的ではある
図7:ADC/DACも内蔵し、アナログ信号のまま入力してアナログ信号として出力できるというあたりもちょっと特徴的ではある[クリックで拡大]

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