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3種のDC/DCコンバーターのまとめ(2)ダイオードの選定&Mode IIについてたった2つの式で始めるDC/DCコンバーターの設計(23)(1/4 ページ)

今回はダイオードの選定について説明するとともに、チョーク電流連続でも平滑キャパシターへのエネルギー供給期間が短くなるMode IIについて説明します。

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 前回は今まで説明してきた3種類のコンバーターの各種計算式をコンバーター選定、設計の参考になればと思い、まとめて比較しました。
 その文中の表1の「Cの充電電流」の項目で降圧型の内容を「連続」と表記しましたが誤解を招く不適切な表現であり、項目名としては「Cへの電力供給」が適切だったかもしれません。
 また前回は説明の区切りと内容の観点からダイオードについての説明が積み残しになってしまいました。そこで今回は積み残したダイオードについて説明するとともに、チョーク電流は連続だが平滑キャパシターへの充電期間がコンバーターのオフ期間より短くなるMode IIについて説明していきます。

1.ダイオードの要求特性

1-1)サージ電流

 コンバーターの出力短絡時には保護回路が応答するまでの期間、回路方式によっては過大なパルス電流が流れます。この過大なパルス電流による発熱によってジャンクション温度TjがTj(MAX)(最高接合温度)を超えないようにしなければなりません。この時の判断に影響するのが次に述べる最大サージ電流IFSM値と、A2s値です。

【最大サージ電流(IFSM)】
 熱的に耐えうる単発の50Hzまたは、60Hzの半波正弦波電流の実効値です。Tc=Tj=25℃の時にこの半波電流が流れると、ジャンクション温度TjはTj(MAX)まで上昇します。実機では次のI2t(A2s)値と併せて設計妥当性を判断します。
 特に昇圧型DC/DCコンバーターではパルス・バイ・パルス型の過電流制限回路*が適用できません。負荷短絡保護としてヒューズを用いた場合は溶断時間が数ms以上になりますので設計妥当性を判断するにはこの保証値と、後述する温度ディレーテングを併せて考慮しなければなりません。
 一方、降圧型や反転型DC/DCコンバーターではパルス・バイ・パルス型の過電流制御回路が使用できるのでサージ電流の時間幅が1msより大幅に短くなりIFSMが問題になる場合はほとんどありません。

*パルス・バイ・パルス型過電流制御回路:スイッチング動作1パルス毎にスイッチング電流の大きさを検知してスイッチング素子を遮断し、過電流を制限する方式。ただし昇圧型ではδ=0でもVccの電圧が出力されるので過電流保護ができない。

【A2s値】
 電流二乗(時間)積と呼ばれる保証値で、前述のIFSMより短い時間幅のサージ電流に適用します。
 この値は "時間t" とその時間内に流れる "半波正弦波電流の実効値IFSの二乗" の積で算出します。
 正弦波損失の過渡温度上昇ΔTjは正弦波ピーク値の約67%の矩形波損失と同等の温度上昇を示します。正弦波の実効値(70.7%)とほぼ等しいので近似的に実効値で計算しますが時間tは1msを下限とし、これより短い波形でも1msの制限値を適用します。
 DC/DCコンバーターなどのスイッチング電源では電流波形は概台形(=矩形)波ですからIFSにはヒゲ状のスパイク分を除いた波形の値を用います。

 このA2s値はジャンクションの過渡温度上昇の制限に基づくものです。限度を超えると素子内部にダメージが蓄積されますのでTj(MAX)が限度を超えないような温度低減が必要になります。
 A2sを保証値、tを過電流の持続時間、IFSを実測の順方向の実効値とした時、ダイオードのジャンクションの過渡温度上昇ΔTjは、

1式

で推定します。ですからt=8.33ms(60Hz半波)の時、A2sから求めたIFSと前述のIFSMは等しくなります。
 この時のTj(=Tc+ΔTj)の上限は一般には(Tj(MAX)×80%)としますが高信頼性が要求される電子機器では(Tj(MAX)×70%)とする場合も多くあります。

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