ON/OFFコンバーターの制御不安定問題(3)状態平均化法での結果と安定化動作に必要な位相/利得:たった2つの式で始めるDC/DCコンバーターの設計(29)(2/3 ページ)
今回は状態平均化法と呼ばれる数学的解析手法の結果について説明し、続いて安定化動作のための位相や増幅器の必要最低限度必要な利得について取り上げます。
利得と安定性
8式はコンバーター自身の周波数特性ですが実際のコンバーターではこの周波数特性のほかに誤差増幅器を含む制御系が一巡の負帰還ループを構成します。後述するようにこの一巡するループの周波数が実際のDC/DCコンバーターの低電圧動作を左右します。
この動作に関連する記事として本連載第27回 「ON/OFFコンバーターの制御不安定問題-1」で次のように説明しました。
このようにON/OFF型コンバーターでは2次の遅れ(基本特性)とδの(1−S)特性が直列に接続されるので利得は1次の減衰特性でありながら位相は3次の遅れといった奇妙な特性になります。
実際の電源回路ではこの特性を考慮して補償定数を適切に設定しないと減衰特性と位相回転が合致せず、制御の不安定問題を引き起こします。
この説明に基づいて最初にDC/DCコンバーターの定電圧動作と周波数特性について考えます。
コンバーターの電圧を一定に保つには安定した負帰還動作が欠かせません。負帰還動作の詳しい説明は省きますが、負帰還動作とは入力信号を打ち消す極性で出力信号の一部を加えることが基本です。
この時DC/DCコンバーター自身や誤差増幅器の位相特性によって入力に帰ってくる出力信号の位相は−180度から徐々に回転し、場合によっては−360度、つまり入力信号を打ち消すはずが逆に同相となって入力信号を増幅させることになります。
したがって安定した負帰還動作のためには制御信号が正帰還動作になる前に制御系の全体利得を1以下に下げるよう負帰還ループ内の位相補償定数を調整しなければなりません。利得が1以下であれば増幅作用はないので−360度位相が変化していても正帰還動作には至りません。
この動作を簡単にまとめると次のことが言えます。
①全体の利得ー周波数特性はDC/DCコンバーター自身の2次遅れ特性や誤差増幅器の遅れ位相特性によって高周波域で低下します(右肩下がり)。
②誤差増幅器のDC利得を変化させると①の曲線は上下に平行移動します。
③制御系の位相ー周波数特性は①の曲線の形状にのみ左右され、DC利得とは無関係です。
利得と位相の周波数特性を作図してみると、①、②から利得が1以下に低下する周波数は利得が大きいほど高周波域へ移動します。その一方で③の位相の周波数特性は利得によって変化しないことが確認できます。
つまり高利得であればあるほど利得が1になる周波数は高周波域へ移動しますが、③の位相の周波数特性利得によって変化しません。位相は高周波域になるほど遅れるので利得が1になる周波数が高周波域へ移動することは位相の回転が大きくなることと同義になります。
ここで取り上げている(1ーs)の周波数特性は利得は高域で上昇するにもかかわらず位相は遅れるという周波数特性を持っています。つまり(1ーs)特性を持つDC/DCコンバーターの周波数特性は利得が1になる周波数が高域に移動するにもかかわらず位相は遅れるというになります。
このことは先に述べた制御信号が正帰還動作になる前に制御系の利得を1以下の条件を満たせなくなるので誤差増幅器の利得は低い方が好ましいことになります。
位相とは
負帰還制御では位相が重要と述べましたが交流信号の位相はブランコの運動に例えることができます。交流信号の位相は周期的に「前方ピーク→最下点→後方ピーク→最下点→前方ピーク」を繰り返す運動の中でどの位置にブランコがあるかを示すものです。同じ最下点にブランコがあってもそれが前方ピークから下ってきてこれらか後方ピークへ向かうものか、それとも後方ピークから下ってきて前方ピークへ向かうものかを区別する必要があります。
負帰還制御とは入力信号を出力信号で打ち消す動作です。ですから制御回路は−180度の位相差で入力信号と出力信号を混合することで全体として打ち消し動作になるように設計します。
しかし、回路の特性によって入力に戻ってくる出力信号の位相が変化すると位相差は−180度から変化します。例えば−180度から位相が遅れて−360度になれば打ち消す動作が加算する動作に変わってしまします。
ブランコで例えれば、ひもで結ばれた2つのブランコが互いに逆の動きをすればブランコ全体の運動は抑えられます。ですが同じ向きに動けばブランコはひもを通じてエネルギーが行き来して大きな振動が発生してしまいます。
ただしブランコの支柱などの構造物が柔構造、つまりダンパーなどで振動を吸収できるような構造であれば位相がそろっても振動は吸収されて振動は大きくなり(=成長し)ません。
この振動を吸収する柔構造の周波数特性回路は位相補償特性に相当し、運動エネルギーが利得に相当します。
つまり運動エネルギーが低(=低利得)ければ入力に帰ってくる出力信号の大きさは最初から小さいので柔構造によって振動は十分小さなレベルまで吸収され、互いにブランコを加速することができません。
しかし逆に運動エネルギーが大きい(=高利得)時には帰ってくる信号が大きいので柔構造によって振動が吸収されても振動が成長するには十分なレベルに達し、振動は成長していきます。
DC/DCコンバーターの動作はこのように例えることができます。
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