半導体製品の“しば漬け”的存在!! 評価キットのデータシートを読みこなす:英文データシートを“読まずに”活用するコツ(6)(1/2 ページ)
今回は、半導体製品を短期間で評価するために欠かせない名脇役――いわば“しば漬け”的な存在である「評価キット」に注目します。評価キットにも、半導体製品と同様にデータシートが用意されていますが、評価キットならではの独特な項目もあります。英文で書かれているそれらの項目を読みこなすコツをお伝えしましょう。
皆さん、秋真っ盛りです。いかがお過ごしでしょうか? 食欲の秋、芸術の秋、読書の秋……なんて言いますが、筆者はもっぱら睡眠と食欲の秋ですね。実にご飯がおいしい! 特に、炊き込みご飯なんかいいですよね〜。そこで忘れちゃいけないのが、しば漬けとかたくあんとか、横にあって脇を固めるお漬物。筆者はこれが大好きで。メインの料理を引き立てるというか、これがあってこそメインがおいしくいただけるというか。やはり欠かせない存在です。
ということで、今回はしば漬けのお話!! ――ではありませんが、半導体製品を短期間で評価するために欠かせない“名脇役”であり、漬物的な存在である「評価キット」の英文データシートについて取り上げたいと思います。
評価キットのタイプは大きく2つ
本連載ではこれまで半導体製品そのものの英文データシートを中心にお話してきました。ここで少し脇にそれて、半導体ベンダーが自社製品の採用を検討するユーザーに向けて提供している評価キットの方に注目してみます。評価キットにも、半導体製品と同様にデータシートが用意されていますが、それには半導体製品に無い項目が記載されているので、それらを中心に評価キットの英文データシートとうまく付き合う方法について紹介しましょう。
一般に評価キットは、次の2通りに大きく分けられます。1つは、外部インタフェースを備え、外部から制御を受けて動作するICを対象にしたもので、そのICと周辺部品をまとめて実装した評価用ボードの他、外部PCからそのICを制御するためのGUI(グラフィカルユーザーインタフェース)ソフトウェアが付属するタイプ。もう1つは、単体で動作するICを対象にしたもので、評価用ボードのみが供給されるタイプです。こちらは、評価ボード自体も外部制御なしで単独で利用する、いわゆるスタンドアロンのボードになります。
これらの評価キットのデータシートは、その半分程度がボードに搭載した部品のリストや、基板のレイアウト、GUIソフトの操作方法などで埋まっています。この辺りは、たとえ英語でも基本的な単語が多く、複雑な構文もありませんし、何より大部分が図表の形式で示されているので、英語の苦手なエンジニアでも、なんとなく分かってしまうかと思います。まず問題ないはずです。
最初に立ちはだかるのは、評価ボードの電源投入の手順に関する記述でしょう。残念ながら、この部分は結構なボリュームの英文で書かれており、英語に苦手意識があるとちょっと身構えてしまうかもしれません。
しかし皆さん、吉報です! ここは、実はそれほど細かく読み込まなくても大丈夫です。よほどセンシティブな製品(例えば、静電気放電(ESD)に弱い高周波ICや、高電圧を取り扱うAC-DCコンバータIC、他系統の電源の複雑なシーケンスを求めるICなど)を除けば、ポイントをある程度押さえれば事足りますから、それ以上に英文を読み込む必要はないと思います。
英語ギライには「手順」の項目が難関
ここからは、先に挙げた2通りの評価キットのうち、外部PCをつなげて制御するタイプについて述べていきます。最近の半導体製品はホストマイコンとの通信用にI2Cインタフェースを搭載している品種が増えており、評価時にはPCからUSBポート経由でこのインタフェースにアクセスし、PC上のGUIからICを制御可能なものが多くなっています。
I2Cのようなシリアルインタフェースを備えるICの代表格といえば、A-D変換器やD-D変換器、デジタルポテンショメーターなどでしょう。これらの評価キットのデータシートでは、電源投入手順に加えて、制御ソフトウェアの解説も英語になっているのが我々には辛いところです。そこをなんとか、前に進んでみましょう。
一例として、8〜12ビットのA-D変換器ICファミリ「MAX11600〜MAX11617」の評価キットである「MAX11600–MAX11617 Evaluation System」を取り上げます。早速、データシートを開いてみましょう(クリックでPDF形式のファイルが開きます)。……うん、英語ですね。最初の方に展開されている部品リストの羅列は飛ばして、7ページ目からが挑戦です。「Quick Start」の項目を見ていきます。
評価キットのデータシートの例 例としてA-D変換器IC「MAX11600〜MAX11617」の評価キットのデータシートを取り上げました。「Quick Start」の項目から見ていきましょう。 (クリックで画像を拡大します)
最初に「Required Equipment(用意するもの)」が示されていますが、これは英文を読解するまでもなく、この手のICを評価したことがあるエンジニアなら想像がつくと思います。USBケーブルとPCの他は、電源装置、波形発生器ぐらいですね。
次がいよいよ「Procedure(手順)」になります。ここも“読まずに活用”していきたいところですが……おっとその前に、注意書き(Note)があるようです。なになに、「以下では、ソフトウェアに関連する用語を太字(bold)で示しています。太字のテキストは評価キットの付属ソフトウェアの用語で、太字に下線を引いたテキストは(外部PCの)Windows OSの用語です」。それほど気にならない指示です。読み飛ばしても大丈夫でした。それでは、手順に入ります。
手順の最初の方は、半導体メーカーを問わずにほぼ同じような内容です。GUIソフトウェアを外部PCにインストールし、評価ボードをPCにつなげ、ボードに電源を供給してから、評価用の装置をいろいろ接続し、GUIソフトを起動して、評価対象のICに接続する――。このような流れでだいたい大丈夫なはず。
うまく接続できないようなら、GUIソフトを起動する前に評価ボードをPCにつなぎ、その後でGUIソフトを起動してみてください。ちょっと古い評価キットではUSB接続のリトライコマンドが入っていない場合がありますが、このようにすれば立ち上がるはずです。
装置側で細かな電源電圧やクロックを設定し、評価ボードに供給する必要がある場合は、本連載の第1回でお伝えしたコツ「文字よりも数字を見よう」を思い出してください。英語の文章を無理に読解しようとせずに、文章の中に埋め込まれた何V、何Hzといった数字や単位、シンボルを探して、それを装置に設定しましょう。
さて、ここまでの手順を例に挙げたデータシートと照合すると、どうやら手順の1)〜11)まで進めてしまったようです。次に、PCのプログラムを起動し、手順の記述に数字が示されている12)〜16)については与えられた数字をその通りGUIにタイプしたり、チェックボックスをクリックして選択したりすれば、ハイ、できた! これで評価可能な状態まできました。
このように、評価キットのデータシートの手順の項目は、英語の文章自体はかなり長いのですが、実際にはこの程度の内容です(ただし、全ての半導体製品で同じとは限りませんので、あしからず)。
もう1つの例として、デジタルポテンショメーターIC「MAX5488」の評価キットのデータシートも見ておきましょう(クリックでPDF形式のファイルが開きます)。
このようなシンプルなシリアルインタフェースのICは、適切な電源電圧を与え、GUIをPCにインストールして、本当に何も考えずに、評価ボードのデータシートのProcedureに太字で記載されている操作をGUI上で順番通りに進めれば問題なく動作するので、“英語を読む”必要がないのです。いいですねぇ、英語を読まずに評価ボードを動作させられるとは、素晴らしいの一言に尽きます!
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