半導体製品の“しば漬け”的存在!! 評価キットのデータシートを読みこなす:英文データシートを“読まずに”活用するコツ(6)(2/2 ページ)
今回は、半導体製品を短期間で評価するために欠かせない名脇役――いわば“しば漬け”的な存在である「評価キット」に注目します。評価キットにも、半導体製品と同様にデータシートが用意されていますが、評価キットならではの独特な項目もあります。英文で書かれているそれらの項目を読みこなすコツをお伝えしましょう。
ここでも使える! 文字より数字
それでは次に、スタンドアロンの評価ボードの例を見てみましょう。リチウムイオン二次電池の充電制御IC「MAX8903A」を取り上げます。
評価キット(品名はMAX8903A Evaluation Kit)のデータシートをご覧ください(クリックでPDF形式のファイルが開きます)。エンジニアの皆さんであれば、まずは部品表や回路図に目がいくと思います。次に見るところは、Procedureの項目にある太字の記載ですね。
ただしスタンドアロンの評価ボードでは、PC制御の評価キットとは、太字で記載された情報の意味合いが異なります。スタンドアロンの評価ボードのデータシートにある太字は、「要注意」の意味です! これをしっかり守らないとICを破壊してしまう危険性があります。そうなってしまったら、サンプル品を再度手配したり、ボード上のICを交換したりといった作業で時間を無駄に費やしてしまいます。
この充電制御ICの評価キットでは、データシートに下記の通り、太字で「注意:全部の接続が完了するまでは、電源を投入しないこと(Caution: Do not turn on the power supply until all connections are completed)」と書かれています。これは当たり前のようですが、大事なところなので、部品リストと回路図の次は太字の記述をちゃんとチェックしましょう!
そして、ここからがProcedureの中身です。まずは、用意する測定装置も手順も、図や表で掲載されているので、英語の文章を読み込まなくても、それらを見ればある程度把握できると思います。また、このデータシートでも手順の記述の中に数字や記号が示されていますが、ここでもやはり、本連載の第1回でお伝えしたコツ「文字よりも数字を見よう」が適用できます。
特に、評価ボードのデータシートを相手にしている場合は、数字や単位に加えて、「ピンの略称」も英文を読み飛ばす鍵になります。例えば、このデータシートで手順の6)には「4.4V」や「0A」という数字・単位の他に、「SYS」、「BATT」というピンの略称が見つかりました。これは、SYSが4.4V、BATTが0AになっていればOKということでしょう。続いて、手順の8)では、3V≦VBAT≦4.1Vという部分はすぐに分かりますね。次の文では、「BATT」、「the battery」、「1A」という単語が目に入ります。充電制御ICなので、BATT端子から電池(the battery)を1Aで充電するということが想像できます。
この後にも英語の文章でいろいろと手順が書き連ねてありますが、たいていは文章自体を読解しなくても、ジャンパー設定の表(この例ではTable 1、3、4)や、文章や表の中で示されている式を見れば、すべきことを理解できるでしょう。
ICの動作について詳細を把握するには、評価ボードではなくIC自体のデータシートを参照すればOKです(本連載でこれまでにお伝えしたコツを活用してください!)。そして、もし評価ボードに何かしらの指示用LEDが搭載されていれば、評価ボードデータシート中で「LED」の項目を探し、そのピンのシンボルを見れば、だいたいどのような機能になっているのか理解できると思います。この例のデータシートでは、6ページにある「Indicator LED(指示用LED)」の項目にその説明が記載されています。
このようにスタンドアロン型の評価ボードのデータシートは、これらの“鍵”さえ見つけられれば、無理して英文を読み込む必要はないと思います。
最後に、外部PC制御タイプ、スタントアロンタイプのどちらにも共通するポイントですが、評価ボードの初期状態を把握しておくことが重要です。特にジャンパー設定は大事です。というのも、評価ボードをいろいろ改造していったら動作しなくなった……という話をよく聞くのですが、ジャンパー設定を初期の状態に戻すと意外と動作が復活するものです。
もし、それでも動かなかったら? 評価キットをもう1個手配するメールを送信し、そのモチベーションをいったん保存して今日は家に帰りましょう!
Profile
赤羽 一馬(あかばね かずま)
1995年に日系半導体メーカーに入社。5年間にわたって、アナログ技術のサポート/マーケティングに従事した。2000年に外資系アナログ半導体メーカーのマキシム・ジャパンに転職。現在は、フィールドアプリケーション担当の技術スタッフ部門でシニアメンバーを務めている。
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