SPICE応用設計(その1):パラメトリック解析:SPICEの仕組みとその活用設計(12)(2/4 ページ)
これまでSPICEとはどのようなものかを紹介してきた本連載。いよいよ今回からは、SPICEというツールをどう設計に応用していくかを紹介してきます。今回は、オーディオアンプの設計を例にとりながら、「パラメトリック解析」の解説を行います。
概算仕様計算
まず、回路動作に必要な定数を計算します。
[1]電源電圧と出力電流
8Ω負荷1W出力より、
出力電圧2.83Vrms
⇒ピーク電圧2.83×√2=4VP
となり、動作電源として±4V電源以上が必要であることが分かります。
そして、出力電流Ioutは、
Iout=4VP/8Ω=0.5AP
と計算できます。
[2]トランジスタ定格
[1]での計算から、
- Ic=0.5Aでhfeリニアリティがあること
- VCEO定格は±電源の合計電圧(8V)以上必要
であることが分かります。
この観点から、ツールに装備されていたQ1:2N2222(NPN-TR 40V0.6A)/Q4:2N2907A(PNP-TR –60V−0.6A)のモデルのAREA属性を10倍に設定し定格電流を拡大して使用します(解析用SPICEモデルはそれぞれ、Q2N2222とQ2N2907Aです)。
AREA=10に設定した時のIc〜hfe特性を図2に示しますが、Ic=0.5A程度まではhfeの低下が顕著ではなく、今回の仕様を満たしていることが分かります。
注1)今回用いたQ2N2222のSPICEモデルはIseが設定されていますので前回(第11回の図3)のモデルと異なり、微少電流域でのhfeの低下も表現できています。
[3]動作電流(I1)設定
電流源I1はカレントミラーのQ2,Q3 / Q5,Q6のペアを介してQ1,Q4に供給されますので、Q1、Q4の動作点は電流源I1によって左右されます。
ですからI1の電流値が不足していると、出力段は充分に動作することができなくなります。
また、過剰であれば定常的な損失となって効率を悪化させることにもなり、適切な値に設定することが求められます。
ここでは解析機能としてパラメトリック解析機能を使用します。パラメトリック解析については後述しますが、回路の定数を切り替えながら同じ解析を自動で実行する機能です。今回はコレクタ電流Icをステップ状に設定しながらベース電流Ibを可変して飽和電圧Vce(sat)を調べます。
図3がその結果ですが、Ic=0.5A時、Ib=3mAで充分に飽和していますので、その倍の6mAを必要ベース電流とします(hfeが半減しても充分な飽和電圧を得るためです)。
図1では簡単に定電流源で表現しましたが、実際にはツェナーダイオードやJ-FETを用いた回路で作られます。しかし、今回は図1の回路設計が目的ですのでここでは触れません。
[4]信号電圧の決定
バイアス電流が決まりましたので、次に信号電圧は何V必要なのかを求めます。
これはプリアンプ(前置増幅器)に対する要求を決めるためです。
【DC解析】
図1の基本回路図において図1の信号源V2のDC値を−10V〜+10Vまで変化させた時に出力電圧V(OUT)の変化の様子を示したものが図4です。
図4から±4Vpの出力電圧を得るには±4.4Vp程度の信号入力が必要であることが分かります。
【過渡解析】
また、図5は実際にオーディオ信号として変数{VSIG}で設定したピーク電圧を持つ10KHzのサイン波を入力として与え、負荷抵抗R1の電力を求めた時のものです。
パラメトリック解析で図1の{VSIG}の値を4.0VPから5.0VPまで0.2V刻みで与え、R1の電力を計算します。図5(a)はR1の電力が安定しているか、否かを確認するために解析したもので、6ms〜10msまで解析すれば一定電力になっていることが分かります。
ですが、このままでは直感的ではないので図4にならって図5(b)のように変数{VSIG}の値を横軸に、8ms〜10msの平均出力電力を縦軸にグラフ化してみました。
図4、図5の結果から、図1の回路で1W出力を得るには±4.4VPの入力信号が必要であることが分かります。なお、当然のことながら、電源電圧が先に飽和しないよう、±10Vと充分高く設定してあります。
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