SPICE応用設計(その1):パラメトリック解析:SPICEの仕組みとその活用設計(12)(3/4 ページ)
これまでSPICEとはどのようなものかを紹介してきた本連載。いよいよ今回からは、SPICEというツールをどう設計に応用していくかを紹介してきます。今回は、オーディオアンプの設計を例にとりながら、「パラメトリック解析」の解説を行います。
[5]電源電圧の設定
信号電圧を求めることができたので、次に同様の手順で電源電圧の最小値を求めます。
今回は図1の回路図の動作電源V1をパラメトリックに可変しました。
注2)図1では負電源側をEデバイスで設定していますので正負電源を同時可変できます。
なお、信号電圧は4.5VPに設定しています。
時間軸での結果を図6(a)に、同じく、電源電圧V1を横軸にとった時の結果を図6(b)に示しますが、結果は4.9V×2以上で飽和傾向、5V以上で急激に傾斜が緩やかになり、5Vで飽和していると見なせます。
従って、必要な最低電源電圧は5V×2となります。
最低電圧:5.00V
定格電圧:5.56V
最高電圧:6.11V
5Vが△10%時の値ですので
定格電圧は5/0.9=5.56V
最高電圧は5.56×1.1=6.11V
と計算できます。以後、特に指定がなければV1=5.56Vとします。
[6]バイアス抵抗の設定
出力段Q1,Q4はバイポーラトランジスタなので、バイアス抵抗が不適切ですと、Q1,Q4がともにOFF、つまり、通電されていない瞬間が生じます。
その結果、この電流の切り替わり点で音響的に高次の歪みが発生し、聞き苦しい音になります。
かといって、連続性を重点に設定すると無信号時でもQ1→Q4へ無効電流が流れ、A級動作になって損失増加を招きます。
解析手法はここでもパラメトリック解析を使って図7に示すようにバイアス抵抗R2、R3の値を{RBIAS}とグローバル変数化して50Ωから500Ωまで対数的に変化させ、Q1、Q2のコレクタ電流波形を観測します。
結果を図8に示しますが、図上のQ1のコレクタ電流を見てみるとRBIAS>=158Ωの条件ではA級動作となって設計条件から外れてしまいます。ですので、RBIASとしては107Ωが限界です。しかし、図下の出力電圧V(OUT)だけを見ていると大した変化はないように見えますのでどの波形で検討するのかは重要な指標です。
[7]歪みの確認
上記のようにバイアス抵抗が決まリましたが、この抵抗で本当に正しいのか、否かを電圧歪み波形と高調波歪みの面から確認します。
図8では多数の曲線が重なっていて歪み波形を確認するのが困難ですので、図9ではRBIASの効果を1μΩと107Ωのみで比較しました。なお、電流波形としては遮断の有無を評価するためIc(Q1)+Ic(Q4)を描かせています。
パラメトリック解析では0Ωが設定できませんので1μΩと107Ωとしましたが、図9に示すように1μΩですと出力電圧信号が不連続になっているのが分ります。コレクタ電流はどちらでもB級動作であることが確認できましたので「B級動作であること」の仕様は満たしていると判断できます。
次回はこの回路を元にさらに温度評価、フーリエ解析を使った歪み評価などを進め問題があれば解決策を検討していきます。
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