SPICE応用設計(その4):モンテカルロ解析の設計応用:SPICEの仕組みとその活用設計(15)(3/3 ページ)
今回は前回のモンテカルロ解析の説明に引き続いて、得られた結果を設計にどう応用していくかについて考えていきます。
実際の設計へのモンテカルロ解析の応用
実際にモンテカルロ解析を設計に応用する場合、偏差を持つのはLCR部品だけではありません。半導体の特性や電源、電流源も偏差を持ちます。“特性分布を評価しました”と自信を持って言うためにはこれらの偏差も評価しなくてはなりません。そのためのいくつかの手法を紹介しますが、これらの手法は一般には公開されていない筆者のカット&トライの項目も含まれていますのでバグが残っているかも知れません。その旨はご了解願います。
1.バラツキのある電圧源/電流源
ツールによっては、モンテカルロ解析で偏差を与えることができる対象に電圧源、電流源などのソースが含まれていない場合があり、その場合には内部基準電圧として電圧源を使うTL431などのマクロモデルにバラツキを与えたくても簡単には実現できないことになります。
しかし、一手間かければ、図6のような回路構成でバラツキのある電圧源を得ることができます。
回路の動作についての説明は不要かと思います。また、応用としてGデバイスを用いればバラツキのある電流源を作成することができます。
(LTspiceなどでは部品の値の欄に直接偏差を設定できますのでお手持ちのマニュアルを参照してください)
2.バラツキのあるモデルパラメータ
回路検討の一環としてトランジスタなどのバラツキも含めて工程能力指数(Cp)を検討しなければならない時がありますが、標準的なSPICEモデルのパラメータには偏差が組み込まれていませんのでモンテカルロ解析として単純に解析することはできません。解析を走らせる都度、手動でモデルパラメータを書き換えていてはランダム偏差ではないのでモンテカルロ解析とは言えません。
このような場合にはモデルパラメータの中に偏差を組み込んだ特別なSPICEモデルを作成する必要があるのです。
ただし、SPICEモデルを改変するためには各ツールのモンテカルロ解析の計算の仕組みをベンダーなどに問い合わせておく必要があります。
今回、公開された資料や筆者の経験を基に一部のツールでモデルパラメータに偏差を与えることができましたのでツールに組み込まれていることの多いTr(2N2222)のBF(hfeを左右するパラメータ)を例に紹介します。
ただし、拡張機能ですので構文は統一されていません。各ツールのマニュアルも併せて参照してください。
また、このような偏差を持つSPICEモデルは次回に紹介するワーストケース解析でも使用しますので覚えておいてください。
3.各種SPICEでの実施例(モデルファイルは同一のものを使用)
各SPICEで同じモデルファイルを使用しましたので特性曲線の形としてはほぼ、同じような形状になっていますが、バラツキは試行回数が5回と少ないためか、かなり異なった分布を示しています。試行回数を10回に設定すると各SPICEの分布も類似になってきますので、やはり10回以上は必要でしょう。また、乱数の出現の様子もツールによって異なるようです。
その他のツールの情報です。未確認情報ですが参考にしてください。
- SIMetrix/SIMPLIS
- コマンドラインで .model Q2N2222 npn.tol BF=0.2 などを追加することで解析できるようです。
次回からモンテカルロ解析を補完し、併用するワーストケース解析について2回にわたり説明します。
執筆者プロフィール
加藤 博二(かとう ひろじ)
1951年生まれ。1972年に松下電器産業(現パナソニック)に入社し、電子部品の市場品質担当を経た後、電源装置の開発・設計業務を担当。1979年からSPICEを独力で習得し、後日その経験を生かして、SPICE、有限要素法、熱流体解析ツールなどの数値解析ツールを活用した電源装置の設計手法の開発・導入に従事した。現在は、CAEコンサルタントSifoenのプロジェクト代表として、NPO法人「CAE懇話会」の解析塾のSPICEコースを担当するとともに、Webサイト「Sifoen」において、在職中の経験を基に、電子部品の構造とその使用方法、SPICE用モデルのモデリング手法、電源装置の設計手法、熱設計入門、有限要素法のキーポイントなどを、“分かって設計する”シリーズとして公開している。
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