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ラプラス素子(その2)SPICEの仕組みとその活用設計(24)(4/4 ページ)

ラプラス素子はSpiceツールベンダー各社の独自拡張機能であり、ツール毎に振る舞いも多少異なります。そこで、今回はV&Vの観点で各ツールのラプラス素子の振る舞いについて見ていきます。

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PSpiceでのパラメータ検討

 PSpiceでは設定項目が見つかりませんでしたので解析時間長だけが設定できる項目になります。LTspiceと同じくξ=0.01の2次遅れ回路で解析時間を100〜500秒まで変化させ、各解析時の75秒〜100秒の25秒間の値を抜き出して比較したものを図10に示します。


図10 PSpiceにおける解析時間長の検討 (クリックで拡大)

 図10では解析時間長が100/200秒の時、振動中心は0.995V(△0.5%)であり、解析時間長500秒の場合は振動中心は1.06V(+6%)です。解析時間長が500秒以上では収束値が1Vからズレていくことが分かります。

 図11は表2で用いた2次遅れ回路におけるPSpiceの波形の立ち上がり部を解析時間別に比較したものです。


図11 2次遅れ系における解析時間長の影響(PSpice) (クリックで拡大)
左がξ=0.01、右がξ=0.1

 解析時間を13秒に設定した時は理論解とほぼ一致していますが、1000秒に設定したものは振幅や位相で理論解と差が見られます。PSpiceにおいてはむやみに解析時間を長くすると精度が悪くなるようです。

 ですからPSpiceの場合は解析時間を変えて結果が安定していることの確認とともに、必要以上に解析時間を伸ばさない配慮が必要でしょう。(13秒≒2周期相当分)

 以上、V&Vの観点から2回に亘ってラプラス素子の検証を行ってきましたが結論として逆ラプラス変換機能の現状はまだまだ使う側の配慮が必要なレベルと言って良いかと思います。

 しかし、Spiceを使った解析だけでV&Vが求められている訳ではありません。応力解析に使われる有限要素法(FEM)、熱流体の解析に使われる有限体積法(FVM)などの数値解析ツールでは材料特性、計算手法、現象の表現法、などにおいて近似を前提に式を立てていますのでSpiceよりもはるかに慎重な扱いが求められています。近似を適用できる限界を知りつつツールを使わなければならないのです。

 この点を忘れて前提条件の範囲を超えてツールを適用すると本連載の番外編(CAEのV&V失敗事例)で紹介したような失敗を招いてしまうことにもなりかねません。

 このようなツールを扱う設計者に求められるのは、ベンダーのセールス・トークに左右されることなく「分かって使う」感覚、そして「解析結果」についての経験と知識は言うまでもありませんが、最も大事なのはそれらから導かれる「解析結果を判断する勘」ともいえる感覚なのではないでしょうか?

 次回は本連載の締めくくりとしてSW電源の動特性を解析してみたいと思います。

*関連記事:CAEのV&V失敗事例 その1 / その2 / その3

執筆者プロフィール

加藤 博二(かとう ひろじ)

1951年生まれ。1972年に松下電器産業(現パナソニック)に入社し、電子部品の市場品質担当を経た後、電源装置の開発・設計業務を担当。1979年からSPICEを独力で習得し、後日その経験を生かして、SPICE、有限要素法、熱流体解析ツールなどの数値解析ツールを活用した電源装置の設計手法の開発・導入に従事した。現在は、CAEコンサルタントSifoenのプロジェクト代表として、NPO法人「CAE懇話会」の解析塾のSPICEコースを担当するとともに、Webサイト「Sifoen」において、在職中の経験を基に、電子部品の構造とその使用方法、SPICE用モデルのモデリング手法、電源装置の設計手法、熱設計入門、有限要素法のキーポイントなどを、“分かって設計する”シリーズとして公開している。


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